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~いち~ あるところに、あおいおんなのこときいろいおんなのこがおりました。 あおいおんなのこは、きいろいおんなのこのことがだいすき。 きいろいおんなのこは、あかいおんなのこのことをおもっていて。 ふたりのきもちは、ずっとすれちがったままでした。 でも、あおいおんなのこにきすされたきいろいおんなのこは、きがついたのです。 じぶんにとって、あおいおんなのこがどんなそんざいなのか。 そしてふたりは、ついにしあわせをげっとしました。 ―――けど、きいろいおんなのこのなかで、あおいおんなのこはいちばんになれたのでしょうか。 1 シュッ、と黄色い小ビンに入った香水を手首と耳の後ろに軽く吹き付ける。 その匂いを嗅ぎながら、鏡の前で一回転。 「―――うん、これでよし、と。どこもおかしくないよね?」 最後のチェックを済ませ、確認するかのようにわたしは鏡の中の自分に話し掛けた。 この日の為に買っておいた秋物の花柄の黄色いワンピース。 いつもよりちょっと派手なデザインだったから、ちょっと心配だったけど―――。 「……これなら美希ちゃんも気に入ってくれるよね」 美希ちゃんと……友達以上の関係になったのが、夏の終わり。 それから今日まで、学校やクローバー、プリキュアとしての活動が忙しくて。 なかなか二人きり、って状況になれないまま、気が付けばもう秋の半ば。 だけど――――今日は。 「……祈里?鏡の前で何をニヤニヤしてるの?」 「え?あ……」 いつからわたしの後ろにいたのか、お母さんの声で我に返る。 ……本当……頬が緩みっぱなしだわ……。 「……や、やだ……な、なんでもないの」 軽く両手で頬を叩いて、お母さんを振り返る。 お母さんはわたしの心を見透かしたように微笑んで。 「―――ま、祈里もお年頃って事よね。おめかししちゃって……デ・エ・トなんでしょ?」 「あ、で、デートなんて……うぅ……」 からかうようなお母さんの口調に、恥かしくなって言葉に詰まってしまう。 デート……そう、今日は美希ちゃんとの初デートなんだ……。 今までだって二人で出掛けたりする事はあったけど……でも。 (こ、恋人としてって思うと……緊張しちゃうな……) 押さえていた胸のドキドキが大きくなるのを感じる。 デートコースなんかは任せてって美希ちゃん言ってたけど……わたしはどうしたらいいのかしら。 何かできる事があれば……って言ってもいつもよりお洒落するくらいしか思いつかないし……。 「何?今度は不安そうな顔しちゃって……せっかくのデートなんだからもっと楽しそうにしなさい」 「楽しそうに……」 「そうよ。自分の一番好きな人とお出かけするんだから、楽しめばいいの。何も考えないで」 ―――……一番好きな人 お母さんの言葉が少しだけ心に引っかかる。 まだ……わたしの中には残ってるんだ……。 せつなちゃんという存在が。 ―――どこかで断ち切らないといけないのに……。 わだかまりを追い払うように軽く頭を振り、もう一度、鏡に写った自分に話し掛ける。 「――――今日はお母さんの言う通り……楽しめばいいのよ、祈里……」 さっきまでは自然と笑っていたのに。 今鏡の中にいる少女は、ただぎこちなく唇の端を吊り上げているだけだった。 * 「ご、ごめんなさい!美希ちゃん、待った?」 待ち合わせ場所の公園。 入り口から美希ちゃんの姿を見つけたわたしは、急いで彼女へと駆け寄った。 「待ったも何も……まだ約束の時間まで十分もあるわよ?そんなに慌てなくても……」 「で、でも美希ちゃんもう……」 「気にしないで。あたしが勝手に早く着きすぎただけだし……ほら、汗かいてる」 バッグからハンカチを取り出して、美希ちゃんはわたしの汗を拭ってくれる。 あ、この香りって……美希ちゃんも……。 「あ、ありがとう……」 「せっかくお洒落してるんだから……もっと落ち着いてよ、ブッキー」 気が付いてくれたんだ……。 それが嬉しくて、わたしは少しだけ笑顔を取り戻す事が出来た。 「え、えへへ……。み、美希ちゃんだって今日は素敵、よ?」 全体的に彼女のイメージカラーである青を基調にしてる事は変わらないけど。 いつもなら長く下ろした髪を、後ろでシニヨン風にまとめていて。 何か……いつもより大人っぽい雰囲気。 「ありがと……ってお互いに褒めあってるのも恥かしいわね。ちょっと予定より早いから……少し公園の中でも散歩する?」 「?予定って……?」 「まだ内緒……さ、行きましょ」 歩き出す美希ちゃんの後ろを、わたしもトコトコと追いかける。 お互いに何を話すでもなく、ただ公園の中をゆっくり歩いて。 だけど、不思議とそれだけでもわたしの心は満たされていた。 (いつも傍にいたのに、こんな事意識してなかったわ) 美希ちゃんが隣にいる事が、いつの間にか当たり前になってしまってたから。 こんな風に安らぎを与えてくれる存在だったなんて、気が付かなかった。 (一番好きな人―――か……) せつなちゃんの事が再び頭をよぎる。 彼女に恋焦がれていた時は、ただ熱くて、黒い衝動がわたしの中にあるばかりだった。 今こうして美希ちゃんと一緒にいるのとは正反対。 そのどちらが一番好きだって事の証明になるのかは分からない。 ―――――けど、やっぱりまだ……。 (……ダメ、難しく考えるのは悪い癖だわ……) 今は楽しまないと。何も考えずに。 ぎゅ。 「え……?」 唐突に握られた手の感触に、驚いて顔を上げると、いつの間にか先を歩いていた美希ちゃんが隣を並んで 歩いていて。 「……こ、これくらいいいでしょ?こ、恋……人同士、なんだし……」 真っ直ぐ前を向いて、目も合わさずにそう言う美希ちゃん。 耳まで赤くして照れている様子が可笑しくて。 「ふふっ……そうよね。恋人さんだもん」 手を繋いだまま、彼女の腕に寄り添う。 今はただ、楽しもう。彼女の傍にいられる事を。 この優しさに包まれている事を。 わたし達は本来の待ち合わせの時間になるまで、ただゆっくりと公園を歩いていた。 ~に~ きいろいおんなのこのこころのなかには。 まだあかいおんなのこへのおもいがのこっていました。 じぶんにとってのいちばんはだれなのか。 かのじょは、まだそれをきめかねています。 あかいおんなのこへは、まるでひのようなはげしいこいごころを。 あおいおんなのこへは、まるでみずのようなしずかなこいごころを。 まったくちがうふたつのきもち。 はたしてかのじょはそのうちのどちらをえらぶのでしょう? 2 公園での散歩を楽しんだ後、わたし達は電車に乗って、隣町まで移動した。 美希ちゃんが言うには、最近出来たいい場所があるんだって。 「結構考えたんだけど……初めてのデートにはね、どうしてもそこに行きたいの」 手を繋いだままで、わたし達が着いたのは……。 「プラネタ……リウム?」 ロマンチックだけど……美希ちゃん星とか詳しかったかしら? チケットを買い、休日だという事もあって多少込み合っているホール内に入る。 席に着いてしばらく待つと、アナウンスと共に場内が暗くなった。 『四季の夜空を彩る星々……まずは春から―――』 ドームの天井に映し出される星達。 顔を上へと向けてそれらを眺めながら、思わず呟いてしまう。 「綺麗……」 イミテーションと分かってはいても、その星々の煌きにわたしは目を奪われた。 クローバータウンだって夜空は綺麗に見えるけど、こうまではっきり見えることなんてあまりないもの。 『次は夏の夜空。<夏の大三角>として有名な琴座のベガ、白鳥座のデネブ、鷲座のアルタイルは―――』 わたしの手を握っていた美希ちゃんの手に力がこもる。 ―――?美希ちゃん、どうしたの? 「……これはね、ブッキー、自己満足みたいなものなんだけど……聞いて欲しいの」 わたしにだけ聞こえるように、小さな声で美希ちゃんが呟く。 「夏のね、お祭りの時。あたし、初めてあなたの……せつなへの想いを知ったの。夜空を見上げてたブッキーの……涙を堪えている姿を見て」 ―――え? あの時の事……見てたの? 「本当なら、こうしてブッキーの手を握ってあげたかった。いつもみたいに。―――だけど」 美希ちゃんの手が震えているのが伝わってくる。 わたしは美希ちゃんの横顔へ顔を向けたけど、彼女はまだ夜空を見上げたまま。 「あなたの傍に駆け寄る事すら出来なくて……その事がね、ずっと後悔として胸の中にあったの」 「美希……ちゃん……」 「この夏は……すごく色んな事があって……それであたし達付き合う事が出来たけど……それだけはもうどうしても取り戻せない―――だから、せめて同じように夏の夜空を見ながら、伝えたかった」 思い切るように息を大きく吸い、美希ちゃんはやっとわたしへと顔を向けた。 「あたしが、いるわよ。ブッキー。あなたの傍にはいつだって。楽しい時だけじゃない。悲しい時も、苦しい時も、こうやって手を握っててあげる」 真剣な眼差しでわたしを見つめる美希ちゃん。 彼女の言葉を聞いているうちに、何故だかわたしは……嬉しいのに……泣きそうになって。 ポスン、と彼女の胸に頭を埋める。 「ありがとう……美希ちゃん……」 「ぶ、ブッキー、泣いてるの!?ゴメン。変な事言っちゃった?」 「ううん……ふふ……なんか結婚式の誓いみたいだね」 星空を二人で見上げる。 秋、冬と変わり行く天空の星々。 現実で季節が変わっても、年月が過ぎていっても、いつもこうしてあなたといたい。 せつなちゃんじゃなくて……美希ちゃんと……。 * 星々の輝きが消えて、場内の明かりが点く。 周りの観客達が次々と立ち上がる中、わたし達はしばらく余韻に浸るかのように座ったままだった。 「そろそろ行かないと、ね。美希ちゃん、次はどこへ―――」 そこまで言って立ち上がったわたしの目が、座っている彼女の首の後ろに釘付けになった。 今までは美希ちゃんの方が背が高いし、場内が暗かったりして気がつかなかったけど……。 ―――?赤く…なってる……? 「ん、ちょっと待ってね。えーっと……」 何かを確認するように、手帳を開いている美希ちゃん。 彼女はわたしの視線には気が付いてないみたいだけど。 「―――ねぇ、美希ちゃん。最近……どこかにぶつかったりした?……首……とか……」 「?何?ラブじゃないんだから……そんなおっちょこちょいな事しないわよ」 「―――そう―――」 彼女の首に残っている赤い痣のようなもの。 それが何かにぶつかったりしたものじゃなければ……。 (キス……マーク……?) わたしの通っている白詰草は清純なお嬢様学校だけど。 その中にも何人かはませている女の子達もいて……見せてもらった事があった。 でも……美希ちゃんが……誰と? 今までの言葉は……わたしを好きだって言ってくれたのは……嘘だったの? 「よし、じゃあ次は、と。―――?どうしたの?ブッキー?」 「―――ううん……何でもない……」 言葉とは裏腹に胸の内に暗いものが湧き上がるのを感じる。 疑念と嫉妬、そして―――失望。 (美希ちゃん……わたしは間違っていたの……?) さっきまでの優しかった気持ちが次第に消えていく。 「さ、ブッキー、行きま……どうしたの?顔色悪いけど……?」 立ち上がり、わたしの顔を覗き込む彼女。 「何でもないって……気にしないで」 「そ、そう?ならいいんだけど……じゃあ行きましょうか」 美希ちゃんは心配そうに、そっとわたしの手を引き、歩き出そうとする。 だけどわたしは―――。 「え……ブッキー……?」 唐突に振りほどかれた手に、美希ちゃんは驚きの声を上げた。 わたしは無言のまま、黙って一人場内を出る。 「…………」 「ちょ……ちょっと待ってよブッキー!」 彼女の伸ばされた手もその声も、今のわたしには届きはしなかった。 ~さん~ きいろいおんなのこのなかで、あかいおんなのこへのおもいがうすれはじめたのに。 ぴんくいろのおんなのこがのこしたいたずらが、かのじょをくるしめます。 きいろいおんなのこのこころには、くろいおもいがうずまいて。 あおいおんなのこのおもいなんて、もうとどきはしません。 ふたたびすれちがいはじめるふたりのこころ。 とおざかりはじめるふたりのきょり。 ふたりは、このあとどうなってしまうのでしょうか。 3 「―――それでそれで?この後黄色い女の子と青い女の子はどうなるの?」 「えー?これで終わりなんだけど……」 「……ラブ……ちっとも終ってないじゃないの」 わはー、とごまかすように笑うラブお姉ちゃんに、あたしだけじゃなく、せつなお姉ちゃんまで不満げな様子。 「つまんないつまんないー!ここからが一番いいところなのにー!!」 「物語としては破綻してるんじゃない?それ……」 「う……千香ちゃんが退屈してるっていうから……せっかく作ってきたお話だったのに……」 ここはあたしの病室。 退院を間近に控えたあたしを、ラブお姉ちゃんとせつなお姉ちゃんがお見舞いに来てくれていた。 日頃から何か面白い事ない?って言っていたあたしに、ラブお姉ちゃんが絵本を描いてくれたんだけど。 「これでも頑張ったんだよ?だけどこれくらいまでしか見当がつかないし……」 「?変な言い方ね?ラブの作ったお話じゃないの?それ」 「い、いやそうなんだけどね……この後どうなるかまではまだ……」 困ったようなラブお姉ちゃんに、せつなお姉ちゃんは腕組みして。 「……それにしてもそのピンク色の女の子の悪戯は酷いわね……頭にくるわ……」 「そーそー、ひどいよね!二人の仲を引き裂くような真似して!」 「本当よ!目の前にいたら精一杯叱ってあげたくなるくらい!」 「ふ、二人とも……そ、そんな悪いコじゃないんだよ?ピンクの女の子も……」 必死にピンク色の女の子の肩を持つラブお姉ちゃん。 その様子が可笑しくて、あたしとせつなお姉ちゃんは笑ってしまう。 「お話の中の事なのに、ヘンなの~」 「あ、そ、そうだよね……は、はは……」 ラブお姉ちゃんは何故かホッとした様子。 「で、ラブ。この後……何となくでも考えてないの?気になるわ」 「あたしも気になる~!教えて教えて~!」 「う~ん……この後、かあ……」 立ち上がり、ラブお姉ちゃんは窓辺へと移動した。 あたし達に背中を向けて、ラブお姉ちゃんは空を見上げながら。 「……絵本だからさ。よくある終わり方すると思うよ。この後……何があったとしても」 ラブお姉ちゃんの顔はあたし達からは見えなかったけど。 でも……何でだろう。 「きっとあのコ達なら……何があったって……ね」 ラブお姉ちゃんは少し泣いてるように……あたしには見えた。 * 人の多い大通りを、わたしは早足で歩いていく。 後ろからは美希ちゃんの呼ぶ声がするけど……速度を緩めないままで。 そんなわたしの肩に、彼女の手が置かれた。 「待ってってば!どうしたのよ、ブッキー……」 「別に……どうもしてない」 彼女を振り返る事もせず、暗い声で返事をする。 「どうもしてないワケないじゃない……ねえ、あたし……何か気に障るような事した?」 「…………」 とぼけてるの、美希ちゃん? それとも、わたしならその首の痕に気が付いても怒らないとでも思った? 「ブッキーってば―――――」 足を止めたわたしの前に、美希ちゃんが回り込んだ。 心配そうにわたしを覗き込んでくる彼女の顔から―――目を逸らす。 「ねえ……お願いだから何とか言って……あたしが悪いなら謝るし……な、何でもするから……」 「―――何でも?」 必死って言ってもいい美希ちゃんの懇願に、わたしの中の黒い気持ちが反応する。 何でも……してくれるんだ。 ―――じゃあ。 「キスして」 「キ―――」 わたしの言葉が予想外だったのか、一瞬言葉に詰まる美希ちゃん。 その様子を見て、わたしは少し歪な笑みを浮かべた。 「今すぐ、ここでキスして。何でもしてくれるんでしょう?だったら―――」 無理を押し付けてる事は分かっている。 周りには大勢の人たちが歩いてるし、もしそんな事したら好奇の目で見られるのは確実だもの。 それに読者モデルをやってる美希ちゃんが、もし気が付かれたとしたら大変だものね。 さあ、どうするの?美希ちゃん? ――――――やっぱり嫌なコだな、わたし……。 目が潤み出すのが分かる。 こんな女の子じゃ……美希ちゃんが浮気してても……何も言えないわ……。 そう考えて俯いたわたしの顎を、美希ちゃんの手が持ち上げた。 (―――え?) 驚いて、逸らしていた目を美希ちゃんへと戻した時、わたしの唇に。 ―――彼女の柔らかな唇が静かに重なって。 頭の中がぐるぐると回っている。 ―――美希ちゃん、ダメだよ!皆見てる! ―――もし美希ちゃんがモデルさんだってバレたら大変だよ! ―――どうして?どうして平気でこんな事が―――。 混乱するわたしの左手を、彼女の右手が握り締める。 壊れやすい大切な物を守るかのように、優しく。 わたしもいつしか、その手の感触に身を任せるように、そっと目を閉じた。 唇が離れ、わたしが再び目を開けた時、そこには微笑む美希ちゃんの顔があった。 「―――これでいい?ブッキー……」 「………あ……う、うん……」 ぼうっとしたままの頭で、なんとか返事を返すわたし。 やがて徐々に意識がハッキリしてきて。 「!!み、美希ちゃん!!」 「……やっとあたしの目を見てくれた……」 空いている左手を背中へと回し、美希ちゃんはわたしを抱きしめる。 「……さっき言ったばかりじゃない……悲しい時も、苦しい時もあたしがいるって……。今だって……」 繋がれた手に、力が込められた。 まるで、わたしの中の黒い思いを流し去ろうかとするように。 ―――バカだな、わたし。 ―――美希ちゃんを、疑っちゃうなんて。 ぽろぽろと涙が零れ落ちる。 「ブッキー!だ、大丈夫?!」 「え、えへへ……だ、大丈夫。今日は泣いてばっかりだね……初めてのデートなのに」 涙を拭いて、わたしも右手を彼女の背中に回す。 左手には、彼女の想いに答えるように力を込めて。 「―――ねえ、美希ちゃん。少しかがんで……首を向こうに捻ってくれる?」 「?え?ブッキー……何を……?」 「いいから……お願い……」 不思議そうにしながら、美希ちゃんが首を少し捻る。 そして、わたしの前には、例のキスマー……赤い痣が。 躊躇う事もせず、わたしはそこに口付けた。 ―――少し美希ちゃんがくすぐったそうな声を漏らしたけど……。 結婚式なら、これは、誓いのキス。 もう二度とあなたの傍を離れたりしないように―――。 赤い痕を覆い消そうとするように、激しく、強く、わたしは口付け続けた。 ちゅ……と音を立てて、唇を離した。 それから首を戻した美希ちゃんと、お互いに見つめ合う。 「な、なんだったの……今日は分からない事ばかりだわ……」 首筋を撫でながら、不思議そうにしている美希ちゃん。 わたしはそんな彼女に微笑んで。 「いいの!分かって欲しいのは―――美希ちゃんがわたしの一番なんだって事だけなんだから!」 大好きだよ、美希ちゃん。 この世界の誰より、あなたが好き。 そう、今なら―――それが言えるわ。 そして―――さよなら。せつなちゃんへの想い。 「あ……」 わたしの言葉に、顔を真っ赤にする美希ちゃん。 その様子を見て、わたしはクスッと笑ってしまう。 ――――――そして、ハッと気が付いた。 「み、美希ちゃん……ま、周り……」 「周り……って?えっ!?」 いつの間にか周りでは、道行く人々が足を止め、呆然と、あるいは頬を赤らめながらわたし達を見つめていた。 その状況に、わたしの顔も熱くなって―――――。 「み、みんな見てるよ……ど、どうしよう……」 「あ、そ、そうね!とりあえずこの場を離れなきゃ―――」 オロオロするわたしの手を引き、美希ちゃんは駆け出した。 「―――ね、ねえ美希ちゃん、この後はどこへ行くの!?」 わたしの問いかけに、美希ちゃんは微笑んでウィンクする。 「あたしのデートプランは、完璧!なんだから!楽しみにしておいて!」 その言葉に、わたしもニッコリ笑顔を返す。 ―――そしてもう離したりしないように、繋いだ美希ちゃんの手を強く握り締めた。 「勿論―――わたし、信じてる!!」 あなたが傍にいてくれるなら、きっと。 どんな事があったって、楽しいものになるって、ね。 デートだけじゃなくて。 これから先も、ずーっと続いていく……。 わたし達の物語も―――――――――……。 ~よん~ こうして、あおいおんなのこはきいろいおんなのこのいちばんになったのです。 そしてふたりのおんなのこは、それからもしあわせにくらしたのでした。 いつまでも、いつまでも。 ずーっと、ね。 ……ちょっぴり、くやしいけど。 めでたし、めでたし。 おしまい 了
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少し青さを取り戻した空が、何だか今日はいつもよりまぶしい。そう感じた。 ラビリンスの首都に、新しく造られた公園。まだ木々こそ生え揃っていないものの、草花の緑が、風にやさしく揺れている。 「おねえちゃん。それ、なあに?」 ふいに幼い声に呼ばれて、少女は立ち止まった。 腰に付けた白い携帯ケース。そこからはみ出した、赤と金に彩られたストラップに、小さな女の子の目が釘付けになっている。 「これ?」 少女はケースから携帯を取り出すと、屈み込んで女の子と目線を合わせた。 好奇心に満ちた大きな瞳。その目が、あの幸せな街の子供たちに、よく似た光を放っている。それを心から嬉しく思いながら、 「これはね・・・」 少女は、ゆっくりと話し出した。 どんぐりころころ その歌を教えてもらったのは、歩き始めたシフォンを連れて、みんなで公園に出かけた日のことだった。 幼い頃のラブたちが、「どんぐり王国」と呼んでいたという、公園の一角。大はしゃぎのタルトとシフォンにつられるように、私たちも夢中になって、どんぐり拾いに興じていたとき。ふいにラブが、その歌を口ずさんだのだ。 「なぁに?その歌。」 片手では持ち切れなくなったどんぐりを、大きめの落ち葉の上にそっと置きながら、私はラブの顔を見上げた。 「どんぐりころころ、っていう童謡だよ。」 ラブが得意そうに、続きを歌い出す。すぐに美希とブッキーも、一緒になって歌い始めた。 どんぐりころころ どんぶりこ お池にはまって さあ大変 ドジョウが出てきて こんにちは 坊っちゃん一緒に 遊びましょ どんぐりころころ 喜んで しばらく一緒に 遊んだが やっぱりお山が 恋しいと 泣いてはドジョウを 困らせた 「・・・それで、おしまい?」 歌い終わったみんなに、思わず尋ねた。 一瞬、私の脳裏に、どんぐりの坊やとドジョウ・・・ではなく、涙をふり飛ばして大泣きしているシフォンと、それをなだめようとオロオロしているタルトの姿が、鮮やかに浮かんでしまったのだ。 何だかちょっと悲しくて、あっけない終わり方だと思った。 「え? ええっと・・・確かこの歌って、2番までだったわよねぇ、ブッキー?」 美希が少し戸惑った様子で、ブッキーに助けを求める。 「うん。確かそうだったと思うけど・・・」 ブッキーも、何だか自信なさそうだ。 「うーんと、きっと、この後どんぐりは、ドジョウと一緒にお山に帰っていったんだよ!」 必要以上に力のこもった声で言うラブに、 「ドジョウまで一緒にお山に帰って、どうするのよっ!」 すぐさま美希が突っ込む。 ふふっと肩をすくめるようにして、ブッキーが小さく笑う。私も、仲間たちを眺めながら笑顔になった。 みんなとの楽しい時間。こんなことで暗い雰囲気になるなんて、もったいない。そう思いながら、さっき感じた小さな疑問を、心の隅に何となく仕舞いこんだ。 ところがその日、穏やかな時間が過ごせたのは、その時までだった。その日は・・・いや、その日から始まった一週間ばかりは、まさに怒涛の日々だったのだ。 またしてもインフィニティになったシフォン。子守唄でやっと元に戻ったと思ったら、ついに現れた、ラビリンスの最高幹部・ノーザ。その脅威に打ち勝とうと、みんなで行った特訓。焦りと不安から、仲間割れを起こした私たち。でも結局、大切なのはみんなの気持ちをひとつにすることだと教えられ、生まれた新しい技、グランド・フィナーレ。 みんなで楽しくどんぐり拾いをしたことが、まるで遠い出来事に思えるほど、それは濃密で、大変な一週間だった。 だからだったのだろう。久しぶりにラブの部屋に4人で集まったとき、 「せつなちゃん。あれから気になって、少し調べてみたの。「どんぐりころころ」の、歌詞なんだけどね。」 ブッキーにそう言われても、私はすぐには何の話か、よくわからなかった。 やっと思い出して、ああ、あの歌・・・と頷いた私に、ブッキーは安心したように、カバンの中から手帳を取り出した。 「この歌ね、元々、歌詞は2番までだったらしいの。でも、せつなちゃんみたいに、ちょっと寂しい終わり方だなって思った人が、多かったのかな。続きの歌詞を作った人が、何人か居たみたい。」 例えば、これ。そう言って、ブッキーは手帳を開いて、写し取った歌詞を見せてくれた。 この前みんなが歌ったメロディーを思い出しながら、恐る恐る口ずさんでみる。隣りから覗きこんでいたラブが、すぐに一緒に歌い始めてくれた。 どんぐりころころ 池のふち 一羽のムクドリ 飛んできて ドジョウの兄さん ありがとう 坊っちゃん一緒に 帰りましょう どんぐりころころ それからは お山とお池を 行き来して 友達たくさん 出来たねと やさしくそよぐよ 秋の風 「わはっ。どんぐり坊や、良かったね!」 「ふぅん。歌詞が加わると、ずいぶん雰囲気が変わるのね。」 無邪気に感想を言うラブと、感心したようにつぶやく美希。やさしい結末に、私も嬉しくなる。 「童謡って、続きの歌詞をつくることも、よくあるの?」 「わたしは他の歌では知らないけど・・・。でも、この歌は昔からよく歌われてきた童謡だから、思い入れがある人も、多かったんじゃないかな。」 ブッキーはそう言って、 「でもね。わたしは、元々の2番までの歌も好きだよ。」 と続けた。 「どんぐりさんが、その後どうなったのか。ドジョウさんは、どんぐりさんに泣きやんでもらえたのか。いろいろ想像できるじゃない?」 「そっか。歌う人が百人居れば、百通りの「どんぐりころころ」が出来るんだねっ?」 ブッキーの言葉に、ラブが目をキラキラさせる。 「もしかしたら、この歌を作った人って、そう考えて、わざと歌詞を2番までにしたのかもしれないわね。」 そう言いだす美希に、 「え?わざと?」 私が驚いて訊き返すと、彼女は私の反応がわかっていたかのように、ちょっといたずらっぽく微笑んだ。 「そ。わざと歌う人に想像させて、楽しんでもらえるようにね。歌ったり聴いたりした人の心の中で、初めて完成する歌、ってこと。それも素敵じゃない?」 なるほど、と思った。 この世界に来るまで、音楽に触れる機会がなかった私には、歌のことはまだよくわからない。でも、歌を作った人の想いだけじゃなくて、歌う人や、聴く人の想いも歌を形作るのなら。その世界は、きっと果てしなく広がっていくだろう。 ラブのベッドの上で遊んでいる、シフォンに目がとまる。この前公園で拾ってきたどんぐりを、並べたり、転がしたり、時々宙に浮かせたりして、キュアキュア~!とはしゃいでいる。 シフォンが大きくなって、もしもこの歌を耳にしたら、私たちとの想い出も一緒に思い出すのかな。そう思ったら、少し悲しいと思っていた歌詞も、付け加えられた物語も、そして素朴なメロディも、何だかとっても、愛おしくなった。勿論、歌に歌われた、秋の日差しがそのままコロンと固まったみたいな、小さな宝物も・・・。 * * * * 「これはね。どんぐり、っていう木の実を使って、お友達が作ってくれたものなの。」 せつなは、ストラップを大事そうになでながら、女の子に語りかける。それは、彼女がラビリンスに戻るとき、仲間たちからもらったものだった。 ラブが大切にしまっておいた、シフォンのおもちゃだったどんぐりを、祈里が、痛んだり壊れたりしないように、丁寧に処理し、補強して、金のリボンと赤の組ひもで、可愛く細工してくれたのだという。ふわりと香るアロマは、もちろん美希の特製だ。 今はもう、変身アイテムではないリンクルン。しかし、異世界間であっても、通信機器としてならちゃんと使える。 もっとも、せつなは普段それを大事に机の中に仕舞っていて、持ち歩いてはいない。今日珍しく身につけているのは、明日からの休みを待ちきれないラブから、ひっきりなしにメールが届くから。そしてそれを無視できないほど、せつな自身もわくわくしているから。 年に数回だけだったが、少しまとまった休みが取れたときには、せつなはなるべく、四ツ葉町の桃園家で過ごすことにしていた。 「ねぇ!見て、これ。とってもきれいだよ!」 夢中になってストラップを見つめていた女の子が、友達が近くにいるのに気付いたらしい。すぐにパタパタと足音が聞こえて、小さな頭があと2つ、仲良くせつなの前に並んだ。 「うわぁ、これ、なぁに?」 「どんぐり、って言うんだって!」 「かわいい~。」 「とってもきれい!」 嬉しそうにはしゃぐ子供たち。ラブたちの小さい頃も、こんな風だったのかな。微笑ましさを覚えながらそう思ったとき、不意に、脳裏にあの歌が浮かんだ。 (そう言えば・・・) 頭の中で歌詞を思い起こしながら、せつなはふと考える。四ツ葉町とラビリンス。どちらもとても大切な場所だけど、自分にとっては、どっちがお山で、どっちがお池なんだろう。 どんぐりのストラップに込められた、みんなの想い。ラビリンスに戻っても、時々は帰ってきてね、という優しい願い。それは、せつなにも十分に伝わっていた。 (まぁいいか。明日向こうに帰ったら、子供たちにストラップが大好評だった、ってみんなに話そう。ブッキー、きっと喜ぶだろうな。そしてお休みの間に、子供たちに教えられるような、草花を使った工作、習って帰ろうかな。) そんなことを思ったとき、自分が、どちらの場所に対しても「帰る」という言葉を自然に使っていることに気付いて、せつなは小さく笑みをこぼした。 「おねえちゃん、ありがとう!」 仲良く並んで走り去る小さな背中を見送って、改めてぐるりと周囲を見渡す。 今まで木なんて一本も無かったこの街。公園に植えられている木は、どれもまだひょろひょろとした、頼りない苗木だ。 でもやがて、木々は大きく成長して、公園の一角に、小さな林を作るだろう。秋には落ち葉の絨毯を敷き詰め、木の実も落としてくれるかもしれない。そうしたら、子供たちはあの時のシフォンのように、大喜びで宝物を探すだろう。 そして、もしかしたら。 それらの楽しい思い出が、いつしか歌になって、ラビリンスの子供たちに、歌い継がれていくかもしれない。歌を作った人の想い。歌う人や、聴く人の想い。ひいては、この公園を造った人の想いや、木々を育てた人の想い。みんなの想いを乗せて、広く・・・果てなく。 そんな幸せな想像をしばし巡らせてから、せつなはゆっくりと、公園を後にした。 ちょっと照れ臭いけど、今日感じたことを、今の嬉しい気持ちを、明日みんなに伝えたいな。そう思って見上げる空は、やっぱりなんだか、いつもよりまぶしい。そう、せつなは感じた。 ~終~
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四色に塗り分けられた、四つ葉のクローバーの留め金。 それを外してパカリと蓋を開け、ゆっくりとハンドルを回す。 中央のクリスタルが柔らかな光を放ち、四つのハートがくるくると動き始める。 そして滑るように紡ぎ出される、軽やかで優しい旋律。 「いい音色だよねぇ。曲も素敵だし。」 ラブが後ろから覗き込んで、嬉しそうに言う。 「あ・・・う、うん。」 少し恥ずかしくなって、ラブの顔を見ずに頷いた。 こうやってこの音色に聴き入るのは、今日だけでもう何度目だろう――そう思ったから。 私にとって「音」というものは、耳で捉えることのできる、単なる情報でしかなかった。 言葉としての情報。状況を把握するための情報。危険を察知するための情報。 音を聴くために、音を聞くなんて――音の響きや連なりを、ただ楽しむなんて、 そんなこと、この世界に来て初めて知った。 もっとも、私が最初に知った音楽はダンスの曲だったから、 はじめはメロディよりも、リズムやテンポばかりを気にして聴いていたような気がする。 初めてクローバーボックスの音色を聞いた、あのときの不思議な気持ち。 豊かで澄み切った音は、まるで耳なんか通さずに、 直接心に流れ込んでくるみたいだった。 音は私の中で奏でられ、あたたかく語りかけるようにメロディを紡ぐ。 それに答えて、何だか私の心も一緒に歌っているような、そんな気がした。 「音楽って、音を楽しむものだからさ。 きれいな音楽を聴くと、一緒に歌っちゃうものなんだよ。」 あのときの気持ちを伝えたくて、下手な説明をした私に、ラブが言った。 もしそうなら、私の心も――音楽なんて、まるで知らなかった私の心も、 このオルゴールの曲に乗せて、歌うことが出来るんだろうか。 休み時間の教室の楽しい雰囲気や、晩ご飯の食卓の明るさや、 今、私の隣りにある、笑顔のあたたかさを。 ふわりとやって来たシフォンが、オルゴールの曲に合わせるように、 いつもより優しい声で、キュアキュア~と囁く。 クローバーボックスと、シフォンと、私の心。 何だか三つの心が、歌で楽しく語り合っているように思えて、 私はハンドルを回しながら、知らず知らずのうちに、微笑んでいた。 四つ葉になるとき ~第2章:響け!希望のリズム~ Episode9:四つ葉町、15時16分発 「せつな~、お待たせ。」 クローバータウンストリートの、天使の像の前。五日前と同じ場所に、同じように立っている彼女に、美希は駆け寄る。 「私も、今来たとこ。」 そう言って、少しはにかんだように笑うせつなに、美希もニコリと微笑んだ。 この前と違っているのは、二人とも制服姿だということと、時間が既に午後三時過ぎだということ、それに、二人のこの表情だ。 あのとき結局買えなかった美希の服を買うために、美希とせつなは、今度は最初から二人きりで、学校帰りに待ち合わせたのだった。 商店街を歩く二人の足取りも、今日は軽やかだ。そしてこの前よりも時間が無いだけに、歩調が速い。 「少し急げば、四時にはお店に着けるかしら。」 「この時間なら電車の本数も多いし、大丈夫よ。」 そう言って、美希はちらりと隣を見て、内心あれ?と首をかしげた。何だかいつもより、ヤケにせつなの背が高いような気がしたからだ。 せつな、今日は学校の革靴よね・・・不思議に思って、そっと足元に目をやる。途端に驚きの表情で顔を上げた美希は、せつなの頭の向こうに何があるかに気付いて、今度は思わず、ぷっと吹き出した。 百面相さながらのその表情に、気付いているのかいないのか、せつなは澄まして前を向いたままだ。 美希は、そんなせつなを見つめてニヤリと笑うと、さっと彼女の後ろにまわって、その両肩を上から、くいっと押さえ付けた。 「な・・・なに?」 「そ~んな爪先立ちで歩いてたら、足痛めるわよ?身長だけは、アタシと張り合おうったって、ム・リ・ム・リ。」 「そんなこと・・・。」 せつなが少し悔しそうに、口を尖らせる。が、肩越しに囁いた美希の言葉に、見る見るその顔が赤くなった。 「ありがとう。もう大丈夫よ、魚屋さんの前は通り過ぎたから。」 この前二人でここを通ったとき、店先の水槽の中にアレを見つけて、思わず、ひっ!と声を上げてしまったことを思い出す。せつなはそれを覚えていて、美希の視界に水槽が入らないように、盾になってくれたのだろう。 それも、身長が足りない分を精一杯背伸びして、爪先歩きでカバーするという、単純だけど誰にも真似の出来ない方法で。 やり方は強引だけど、それがいかにもせつならしい・・・そう思って、美希はしみじみと嬉しくなる。 美希の手の下にある肩の高さが、ガクンと下がった。靴の踵をそっと地面につけたせつなが、はぁっと溜息をついて、美希を振り向く。その何とも照れ臭そうな表情に、もう一度ニヤリと笑みを返して、美希はせつなの手を取った。 「急ごう。せつな、走れる?足が痛いなんて、言わないわよね。」 「当然でしょ!」 クスリと笑い合って、駅を目指して走り出す。少し秋めいてきた風が、手を繋いで走る二人の髪を、柔らかく揺らした。 まだラッシュアワーには間があるが、平日の午後だけあって、電車はそこそこに混んでいた。二人並んで、つり革につかまる。 目の前の座席には、大学生らしき若者が座っていて、イヤフォンで音楽を聴きながら、雑誌のページをめくっている。それをちらりと眺めてから、美希はせつなの耳元に口を寄せた。 「せつなにあんなに心配されるんじゃあ、アタシもそろそろ、克服しなきゃダメかしら。」 「何を?」 こちらを見上げて問い返すせつなに、一瞬グッと詰まってから、美希はさらに声をひそめる。 「もうっ!わざわざ言わせなくてもいいでしょう?」 「名前も口に出せないものを、克服なんて無理ね。」 クスクスと笑ってから、せつなは少し真顔になった。 「ねぇ、美希。怖いものって、やっぱり克服しなきゃいけないのかしら。」 「そりゃあ、モノにも拠ると思うけど・・・。」 せつなが告白した“一番怖いもの”を思い出して、美希は口ごもる。 「ごめんなさい、おかしなことを言って。怖いものは、有るよりは無い方がいいわよね。でも・・・。」 せつなは美希の顔から目を逸らし、少し言いづらそうに言葉を続けた。 「私、美希にも怖いものがあるって知って、ちょっと嬉しかったの。それを美希が教えてくれたのが、もっと嬉しかった。」 そう言って、せつなの顔が下を向く。 「そんな風に思うのって、やっぱり私・・・意地が悪いのかしら。」 「ちょっ、それは・・・」 美希が口を開きかけたとき、電車がホームに滑り込んだ。大学生の隣の席に座っていた、サラリーマンらしい二人連れが席を立つ。 「・・・座ろっか。」 美希が気を取り直したように、せつなを促す。そして、二人並んで座席に腰掛けると、さっきよりも一層近くなった横顔に向かって、おどけた調子で囁いた。 「もしそうなら、アタシもせつなに負けないくらい、意地が悪いってことになるわね。」 「え・・・?」 驚いたようにこちらを向くせつなに、美希はパチリと片目をつぶる。 「それに、ホントに意地が悪い相手に、アタシが弱みを見せるわけないでしょう?だってアタシ、完璧だもの。」 「美希ったら。」 せつなが少しうるんだ目でそう言ったと同時に、電車がガタンと大きく揺れて発車する。美希は思い切りバランスを崩して、せつなの肩にもたれかかった。 「ゴメン。完璧・・・じゃないわね。」 「クスッ。ううん、頼りにしてもらえて、嬉しいわ。」 せつなが珍しく、ニヤリといたずらっぽく笑う。そして、わずかに揺らいだ上体を元に戻すと、反対隣の席に向かって律儀に会釈した。そのとき、隣の彼が読んでいる雑誌が目に入って、せつなは、あ・・・と小さく声を上げた。 「ねぇ、美希。今までに、楽器の演奏を習ったことって、ある?」 「え?楽器?うーん、学校の音楽の授業で、リコーダーを吹いたくらいかな。ラブもブッキーも、そう変わらないと思うけど。それがどうかしたの?」 せつなの唐突とも言える問いに答えながら、美希はせつなの隣で広げられている、雑誌のページにちらりと目をやる。なるほど、どうやら音楽雑誌らしい。誌面を大きく飾っているのは、最近ニューヨークで話題になっているジャズピアニストが演奏している写真だ。 せつなは少し考えてから、おずおずと口を開く。 「お店に着く間に、少し聞いてほしいことがあるんだけど・・・いいかしら。」 そう言って、少し上目遣いに自分を見つめるせつなに、美希はここぞとばかりに、ニコリと完璧な笑顔を見せた。 「もっちろん、いいわよ。何でも言って。」 途端に身体ごとせつなに向き直られて、ほんの少したじろぐ。せつなはそんな美希にはお構いなしに、考え考え、ゆっくりと話し始めた。 「あのね。昨日の放課後のことなんだけど・・・」 ☆ 昨日――この日はせつなにとって、初めての日直の日だった。 四つ葉中学校では、日直は二人一組で担当する。授業が終わるたびに黒板を消したり、移動教室のときに窓とドアを閉めて電気を消したり、ひとつひとつは取るに足りないことだが、細かい仕事が朝から放課後まで続く当番。そもそも、「日直」という言葉を初めて聞いたせつなには、戸惑うこともさぞかし多いだろうと思いきや・・・。 「せつなっ!日直のことなら、どーんと任せて!まずねー、朝、先生が入って来たら、『起立!』って号令かけて・・・」 「違うわよ、ラブ。その前に、職員室に学級日誌を取りに行くんでしょう?東さん、わからないことがあったら、ラブじゃなくてわたしに、何でも訊いて。」 「東さん!チョークの粉で指が汚れないように、黒板消しは、僕が責任を持って掃除しておきますから!」 「いーえ、東さん。何だったら、明日は板書は無しってことで、僕が先生に掛け合いましょう!」 「・・・お前ら、いい加減にしろよ。東さんと日直をやるのは、俺だぞ!」 「それが一番、許せないんだぁぁぁ!!」 既に前日の時点で、ラブを筆頭に、次から次へとせつなの世話を焼きたがる級友たちが現れて、一緒に日直をやる男子生徒もたじたじ、というありさま。お陰で当日は、さして大変でもない日直の仕事よりも、そんな周囲の反応の方に大いに戸惑いを覚えつつ、せつなの初めての日直の日は、何だかワイワイと過ぎて行った。 そして、日直の最後の仕事である学級日誌を書き終えて、職員室へ届けに行った、その後のこと。 教室に鞄を取りに戻ったせつなは、人がまばらになった廊下を流れてくる音に気付いて、足を止めた。コロコロと軽快に転がるような、澄んだ音色。音楽の授業で、何度か聞いたことのある音だ。 (あれはピアノの音ね。きれい・・・。誰が弾いているのかしら。) 一緒に日誌を届けに行った日直の相棒と教室の前で別れ、音を頼りに歩き出す。辿り着いた先は予想通り、音楽室だった。半開きのドアの陰からそっと窺うと、ピアノの向こうに見える真剣な表情。弾いていたのは、せつなのクラスメイトの由美だった。ラブと仲良しで、まだ学校に慣れていないせつなを、いつもさりげなくフォローしてくれる子だ。 漆黒の髪を柔らかく揺らして曲のリズムを取りながら、右手ではゆったりと流れるようなメロディを、左手では軽快で正確無比な和音を奏でる。演奏のテクニックについてはわからないせつなにも、その両手から紡ぎ出される音の豊かさは、その耳で確かに感じることができた。 やがて曲が終わり、由美が楽譜から目を上げる。そして、ドアの陰のせつなに気付くと、嬉しそうな、困っているような、何とも複雑な表情になった。 せつなの方も、照れ笑いの表情で音楽室に入り、由美に近付く。 「ごめんなさい。教室の前でピアノが聞こえて、あんまりきれいだったから。」 「あ、ありがとう、東さん。教室まで聞こえてたんだ・・・。ドアが開いていたもんね。」 由美が赤い顔をして、ドギマギと言った。 「今度、地域の音楽祭で、合唱部が歌うことになっていてね。その伴奏を頼まれたの。いつもピアノを弾いていた子が、お父さんの転勤で、急に転校しちゃったものだから。」 「そうだったの。こんな素敵な伴奏なら、きっと合唱もうまくいくわね。」 せつながそう言って、ニコリと笑う。が、当の由美は、それを聞いて視線を泳がせると、ピアノの鍵盤に目を落とした。 「うまく・・・いかないの。わたし、どうしてもみんなの足を引っ張っちゃって。」 「どして?あんなにきれいに演奏してたじゃない。」 驚いて目を見張るせつなに、由美は顔を上げて、真剣な眼差しを向けた。 「東さん、お願い。今度は、そこで最初から聴いていてくれる?」 せつなが頷くと、由美はおもむろに手拍子を始めた。 「このテンポで、手拍子をしながら聴いてほしいんだけど。」 「わかったわ。このテンポね?」 せつなが由美と入れ替わりに手拍子を始める。由美は目を閉じて、その音に耳を澄ませてから、静かに鍵盤に指を乗せた。 由美の右手が流れるようなメロディを奏で、左手の指が三つの鍵盤で和音を作りだす。 曲が始まると、せつなの手拍子が、自然と四拍子になった。身体の動きを音楽の流れに合わせる――ダンスレッスンで、いつもやっていることだ。 (でも、何だかさっきとは違う。何だろう。) 手拍子をしながら、せつなは目をつぶって、じっと音に神経を集中する。 (さっきよりも、音が――硬い?) パッと目を開いて、ピアノの前の由美を見た。その顔は、さっきよりさらに真剣そのものに見えたが、メロディに乗っているような表情ではない。リズムを取っていた黒髪も、今は指の動きを見張っているように、左右に動いているだけだ。 やがて、曲がガラリと雰囲気を変え、左手がトリルの連打となる。その部分で、由美のテンポがせつなの手拍子と明らかにずれ、修正しようとした途端、音が飛んだ。 由美の表情が、さらに険しいものとなる。何とか止まらずに最後まで演奏できたものの、そこからの音はさらに硬く、メロディもリズミカルではなくなっていた。 「ごめんなさい、東さん。わたし、歌が入るとどうしても緊張してしまって・・・。だから合唱部のみんなとも、別々に練習してるの。手拍子だけなら、何とかなるかと思ったんだけどな。」 由美が、力なく肩を落とす。 「本番は一回きりだから、もしも大きな失敗でもしたら、って考えたら怖くって・・・。もう、あと十日しか無いのに。」 独り言のように呟く由美に、せつなは何も言えず、ただ、楽譜と鍵盤とを、じっと見つめるだけだった――。 ☆ 「それで?せつなは、どうしたいの?」 美希が、話を終えたせつなの顔を覗き込む。 「由美の役に立てることがあるなら、役に立ちたいんだけど・・・。」 せつなはそう言って、膝に置かれた自分の手を見つめた。 失敗が許されない状況――それは、せつなにとっては嫌と言うほど経験がある状況だ。そして、そういう時にこそ平常心が大切だということも、身に沁みて知っている。 平常心を保つためには、毎日の訓練を地道に積み上げて、常に平常心で居られるだけの自信を付けるしかない。逆に言えば、毎日の訓練を通して自分の力を正確に把握し、あらゆる事態を想定して対策が立てられれば、緊張して動けなくなるようなことはない――それが、せつなが経験から導き出した結論だった。 「そこまで判っているなら、その子にそう言ってあげればいいじゃない。勿論、練習は必死でやっているんだろうけど、こういうことって精神的な部分が大きいもの。誰かにアドバイスしてもらえれば、違ってくると思うよ?」 「でも・・・。」 美希の言葉に、せつなはちらりと顔を上げ、また膝の上に視線を落とす。 「私がそう思うようになったのは、ピアノや合唱とは程遠い経験を通してだもの。そんな経験と、同じに考えて良いワケが・・・」 「何言ってるの。同じよ。」 確信に満ちた力強い声が、せつなの顔を上げさせる。そこには、あのときウエスターに真っ向から啖呵を切ったときと同じ、強い光を湛えた美希の眼差しがあった。 「せつなの話を聞いて、モデルの仕事も同じだなって思ったもの。人前に立つのって、やっぱり怖いのよ?だから、毎日の努力の積み重ねが大事なの。そうでなければ、とてもじゃないけどモデルなんてやれないわ。」 小声ながらもきっぱりとそう言い切ってから、美希はせつなの目を見つめて、ゆっくりと、優しい声で言った。 「どんな経験にもさ。いろんなことに通じる大切なモノって、何かしらあるのよ、きっと。ううん、辛かったり寂しかったりした経験からこそ、そういうモノを掴んでやらなくちゃ。だってその時間も、アタシたちの大事な人生なんだもん。」 あっけにとられたように蒼い瞳を見つめていたせつなが、ゆっくりと、口元に小さな笑みを浮かべる。それを確かめてから、美希は内緒話でもするように、せつなの耳に顔を近付けた。 「もうひとつ、人前で緊張しない、とっておきの方法があるわ。そこに居る人たち全員が、自分のファンだ、って想像すればいいのよ。」 「ファン?」 不思議そうに小首を傾げるせつなに、美希は必死で言葉を探す。 「えーっと・・・みんながみんな、自分のことを大好きな人たちだって、想像するの。合唱部の仲間たちも、顧問の先生も、見に来てくれたお客さんも、み~んな、ね。大好きだって思ってくれる人たちの前なら怖くないし、一緒に音楽を楽しもうって思えるでしょう?」 せつながハッとしたように、美希の顔を見つめた。 「・・・そうね。音楽って、まずは楽しむものよね。ありがとう。大事なことを、忘れるところだった。」 美希はニコリと笑ってから、チロリと小さく舌を出す。 「まぁ、ホントのこと言うと、今のはママの受け売りなんだけどね。」 「さすが、元アイドルね。でも・・・。」 感心したように頷いてから、せつなは困った顔になった。 「由美に、そんなこと出来るかしら。彼女って、美希ほど完璧に図々しくは無いような気がするんだけど。」 「完璧に図々しいって・・・こら、せつな!」 美希が、小さく拳を振り上げる。そのとき、電車がスピードを落とし、車内アナウンスが高々と、二人が降りる駅の名前を読み上げた。 「あっ、着いた・・・。危ない危ない、アナウンスを聞き逃してたら、乗り過ごすところだったわね。」 美希が慌てた様子で席を立つ。せつなも急いでそれに続きながら、何だか不思議な気がしていた。 五日前にも同じ駅まで電車に乗ったはずなのに、今日はあのときよりずいぶん早く、到着したような気がしたから。 ☆ その翌週の日曜日。 「おはよう、美希。」 四つ葉町公園のドーナツカフェを訪れていた美希は、後ろから駆け寄って来る人影に、笑顔で手を上げた。 「おはよう、せつな。ドーナツ買いに来たの?」 「そう。由美と合唱部のみんなに、差し入れしようと思って。」 そう言って、せつなは嬉しそうに美希の姿を眺める。 「その服、今日も着てくれているのね。」 「ええ。今日は面会日なの。やっぱりパパにも、娘の新たな魅力を、発見させてあげなくっちゃね。」 美希が着ているのは、大きなチェック柄の赤いワンピースに、白いサマーニットのボレロ。この前一緒に出かけたとき、せつなが選んだ服だ。澄ましてポーズを決める美希に、せつなも笑顔になる。 面会日。それは、隣町に暮らす父と弟に、美希が会いに行く日だった。甘い物が好きだというお父さんに、いつものようにお土産のドーナツを買いに来たんだな、とせつなは納得する。 「差し入れって・・・そっか、今日は音楽祭の本番だっけ。」 美希がふと気付いたように、せつなに尋ねた。 「そうなの。ラブも一緒に行くんだけど、ラブったら、なかなか起きないもんだから・・・。今頃、きっと大慌てで支度してるわ。」 穏やかに微笑むせつなの表情が、その後の練習の充実ぶりを物語っている。 実際、あれからせつなは、ダンスレッスンの無い日には、由美と合唱部のメンバーと過ごすことが多かった。と言っても、せつな自身は音楽室の隅に座って、練習を見ているだけだったのだが、せつなが見に来ているというだけで、ヤケに張り切って練習する連中が居たことも、確かだ。 ワゴンの中でドーナツを袋に詰めていたカオルちゃんが、せつなの顔を見て、ニヤリと笑った。 「メロンドーナツの次は、マロンドーナツだよ~ん。メロンとマロン、名前だけは似てるよねっ。味は全然違うけど~。グハッ!」 二人でドーナツの袋を抱えて駅に向かう。二つの袋を何気なく眺めたせつなは、二重に折り返された袋の口が、どちらも左側の角だけ三角に折られているのを見て、小さく微笑んだ。 カオルちゃんの宿題――最悪にばかり目が行くのが『心配』なら、最高の最高にまで目が行ってしまうものは何か――。その答えが、あれから少しずつ形となって、せつなの心の中にある。 幼い姿のラブに、ラブという名前に託した想いを語って、元の世界へ送り返してくれた、源吉おじいさん。 自分のせいで割れてしまった宝石の欠片を磨いて、国政に携わる人々に渡したい――ジェフリーの祈りとも言える提案を受け入れた、めくるめく王国一家。 千香ちゃんが元気になるようにと願いを込めて、懸命にアサガオを育てた女の子。 そして、仲間が居なくなることが怖いと告白した自分に、一人ぼっちにはならないと、力強く励ましてくれた美希。 相手の最高の姿を思い描いて、そうなって欲しいと願うとき、人は「頑張れ」と呼びかける。励ましの声を、応援の気持ちを、相手に精一杯届けようとする。その『応援』を受け取ったとき、最高を示す「右の角」は、さらに高いところへ、明るい方へ、進んでいけるものなのかもしれない。今、そうせつなは思う。 勿論、正解はひとつではないのだろう。人間はひとりひとり、皆違うのだから。 でも、誰かを笑顔に出来る方法のひとつは、ここにあるような気がしていた。 そしてもしかしたら、自分も誰かに応援の気持ちを伝えて、最高の姿を見ることが出来るのかもしれないと、せつなはそっと、由美の笑顔を思い浮かべた。 「じゃあね。その、由美っていう子の晴れ姿、せつなのお陰で緊張を克服した姿を、ちゃあんと見て来て。」 美希が楽しそうにそう言って、せつなに小さく手を振る。今日は、二人の行き先が反対方向なのだ。 「ありがとう。美希も、何か克服したいものがあったら、何でも手伝うわ。」 真面目とも冗談ともつかない様子で、まっすぐに見つめてくるせつなに、美希はゴクリと唾を飲む。それを見て、せつなが堪え切れずにクスクスと笑い出したとき、改札口の方から、明るい声が響いて来た。 満面の笑みを浮かべたラブが、息せき切って走って来る。 「せーつなっ、お待たせ!はぁ、やっと追いついたぁ。あれ?美希たん!今日はお出かけ?」 そこでラブは、美希とせつなを交互に眺めると、途端にキラキラと瞳を輝かせた。 「わっはー!今日の美希たんとせつな、何だか見た目までそっくりだよぉ。な~んか凄~く、仲良しって感じ!」 言われて二人は、慌てて互いの姿を見比べる。 無地とチェックの違いがあるとは言え、二人とも赤いワンピースに白いボレロという出で立ち。おまけに揃ってドーナツの袋を抱えている姿は、確かに見た目まで、実に近しい雰囲気で・・・。 「な・・・何言ってるのよっ!!」 美希とせつなの声が、ぴったりと揃う。もしも声に色があるのなら、二人の声は、それぞれの服の色と同じのはずだ。 「ほら、ラブ、急ぐわよ。早くしないと音楽祭が始まっちゃうわ!」 せつなが美希に照れ臭そうに微笑んでから、いきなりラブの手を引っ張って、階段を駆け上がる。 「わ、わ、わ・・・。み、美希たん、またね!」 ラブはせつなに引きずられるようにして、それでも何とか、美希に手を振ってみせた。 「まったく。しょうがないなぁ、もう。」 美希がやっと、いつもの調子を取り戻す。そして、二人の親友の後ろ姿を見送ると、反対側のホームへの階段を、ゆっくりと、優雅な足取りで上がって行った。 ~終~ 新2-143へ
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飛竜、ハクメンと別れた後、小町率いる影薄チームは大阪を探索していた。 本当はすぐに四国に行ってもよかったのだが、小町自身気になることがあったのだ。 「どう見ても不自然だね、この氷…」 「ホント寒いっすね」 先ほど撃破したデンジャーが暴れたことによる炎の被害は既に収まっている。 だがその代わり、大阪の建物のあちこちが凍結していたのだ。 まるで一面大吹雪に遭ったかのように。 もしかして先ほどあちこちに上がっていた火の手も吹雪によって強制的に…。 この光景を見て小町は日之影に話しかける。 「あたいの知っている奴には冷気を操る奴がいるんだが、正直あいつがここまでやるとは思えないねぇ…。 日之影、あんたの学園にこういうことできる奴はいるかい?」 「あぁいるぜ、黒神くじ…いや名瀬夭歌って奴さ。厳密に言えば冷気を操っているわけじゃないんだが。 もっとも俺もあいつが無意味にこんなことする奴だとは思えねぇよ。 十中八九俺らの知らない奴の仕業だろうな…というかこの規模から考えれば人外の可能性すらあるぜ」 「あたいだって一応人外だけどね」 「人外っすか…まさか『都庁の軍勢』の魔物かもしれないっすね」 「そういえばいましたねモモさん。東京にそんなのが」 「えぇ!?モンスターさんここまで来てるの?」 「え、あたい知らないんだけど。詳しく教えてくれるかい」 桃子と黒子とあかりの口から出た都庁の軍勢というワードに小町が反応する。 桃子は自分に支給されていたスマホを駆使して今まで情報を集めていたのだ。 彼女自身が今まで戦えなかったのは支給品が戦闘向きではなかったことに起因する。 なので今は素手でもA級ズガン師をボッコにできる日之影から斬鉄剣を預かっているのだ。 桃子はスマホのネット掲示板のページを見せながら説明する。 「突如魔物の集団が東京都の都庁を占拠したんすよ。で、今は都庁を巨大な大樹に改造しているという話っす。 人間を敵視しているらしくて、魔物による被害も多発しているとか」 「要するにあたいの世界で言う山の妖怪共を過激にしたような奴らかい、困ったもんだ」 「他にもDMCに心酔する信者の暴動も酷いらしいっす」 「DMCってあのクラウザーさんが率いるカリスマメタルバンドですね。確かクラウザーさん死んじゃったんですよね」 「私も実はDMCのファンなんすけど、流石にここまでは…ドン引きっす」 「やれやれ、つまり東京はいろいろヤバイってことかねえ…」 桃子たちの話を聞いて小町は頭をクシャクシャと掻いた。 「そういやモモ、騎士の奴が行ってたことについて何か分かったか?」 「すいませんっす、こっちに関しては全然サッパリっすよ」 「しょうがねぇな…何せキーワードがなぁ」 他にも空気中に漂っていたという『何か』。 混沌の騎士だけがその存在を感じ取っていたという。 彼の死に際から紡がれた言葉も断片的なもので釈然としないのだ。 解決すべき問題がやまほどあることに頭を悩ませる影薄一行。 そんな彼女達の前に女子のグループ+αが現れた。 彼女達は魔法少女とプリキュアに変身する5人組であった。 影が薄かったためにいきなり現れたことに驚かれたが互いに敵意は無かったため自己紹介及び情報交換は滞りなく進んだ。 そんな中で… 「何?あんたの友人が巨大な竜に攫われたって?」 「えぇ!?ドラゴンさん大阪に来てたの?」 「そうなんだよ、あんた達は見てない?全身氷で三つの首を生やした竜なんだけど…」 さやかは話した。友人であるまどかが吹雪を操る竜に攫われたことを。 彼女達はさやかの治癒魔法で回復した後大阪中を探索してみたが未だに見つかっていないこと。 大阪中で建物が凍結していた氷の竜の仕業だったことに小町と日之影は納得し、あかりは驚く。 「いや、あたいらは見てないねぇ」 「こまっちゃんに同じだぜ。どうやら話聞く限りかなり時間が経っちまってる。 大阪どころか関西にいるかどうかすら怪しいぜ?その竜の飛行速度によるがな」 「そんな…」 「ほ、ほむらちゃん!?気を確かに!」 小町たちの回答に、元々疲弊していたほむらは足元がふらつく。 相田マナが支えたことで倒れずにすんだがほむらの表情からは今にも絶望に落ちそうな気配が漂っていた。 それを見て桃子が口を開く。 「話聞く限りそのドラゴンはまどかって子を殺すつもりはなさそうだから大丈夫っすよ」 「それは本当!?」 「ちょ、ちょっと落ちつくっすよ重火器の魔法少女さん。それに連れ去られた場所は見当がつくっす」 「…やはり東京か」 「あのドラゴンが都庁の軍勢の一人だったらの話っすけどね」 「でも違う可能性もあるよね…」 「確かに…でもこれが唯一の手がかりなんだ。あたいはこの手がかりにかけるしかないと思うけどね」 「小町さんの言うとおりだよ、その可能性に賭けよう!」 小町の言葉に桃園ラブは頷く。 その言葉を受けてマナに支えられていたほむらはしっかりと立ち上がる。 「そうね、一桁でも可能性があるならそれで十分だわ」 「あの竜の飛行速度には追いつけないだろうし…やはり東京に行くしかないか」 「こまっちゃん、アンタの能力で竜との距離を縮められないか?」 「それは無理だね、あたいはあの竜の姿を認識していないからね。東京との距離も同様だ。自力で行くしかないね」 「そうね、そうさせてもらうわ」 「でもこっから東京都って相当遠いよね…」 「関係ないわ、まどかを助けるためだったら距離なんて…」 「その意気だよ転校生!」 どことなく盛り上がりたくなるような対主催チームの雰囲気と言える。 が、そんな中で小町は気づいていた。ずっとこちらに向けられている視線に。 「さて、盛り上がっているとこ悪いが…出てきな。そこにいるのは知っているんだよ?」 「え、誰かいるの?」 「確かに言われてみりゃ気配は感じるぜ…」 小町が誰もいない空間に話しかけるが返事や反応は返ってこない。 小町は斬魄刀『神槍』の刃を誰もいない空間に向ける。 「出てこないんじゃしょうがない…射殺せ、『神槍』ッ!!」 神槍の刃が伸びるが、突如ガキンッ!という音がして弾かれた。 そして聞きなれない声が辺りに響いた。 「んんwww舌で防がねば危ないとこでしたぞwww死んだらどうするのですかなwwww」 草を盛大に生やしたロジカル言語口調と共に巨大なソレは姿を現した。 紫色を基調としたカラーに歪な形の翼を生やした四足歩行の体、ぎょろついた目、そしてチロチロと動く伸縮する舌。 醜悪な化け物が現れたのだ。 「な、何アレ?キモッ!!」 「カメレオンさんかな?」 「失礼なwwwこれでも古龍、すなわちドラゴンですぞwwww」 「ドラゴンって…嘘でしょ?」 「ていうか喋ってますね…」 「モンスターが喋れないといつから錯覚していたんですかなwwww」 先ほどの氷竜とは全く違うこのカメレオンのような化け物がドラゴンを名乗ることに一同は戸惑いを浮かべる。 実際このカメレオンのような醜悪なモンスターはオオナズチ、霞龍と呼ばれる列記とした古龍だ。 竜巻を発生させる、全てを焼き払う業火を吐く、天より雷を落とす…古龍はそれぞれ災害クラスの能力を持つ。 その中で彼が持っているのは自身の姿を消すステルス能力…古龍の中でショボイとか言うな。能力を他の飛竜にパクられたことは触れてやるな。 彼は同期であるクシャルダオラやテオ・テスカトルがモンハンの最新作に出た中一人だけハブられた…。 つまり影の薄い古龍であった。 そんな彼は何が目的で彼女らに近づいてきたのだろうか? 「決まっていますなwwww美少女は全員拉致った上で都庁にお持ち帰りですぞwwww」 「変態だぁぁぁぁ!…って今都庁って言ったよね?」 「でも男二人と淫獣とカービィっぽいのはいらねwwww」 「僕らはお呼びではありませんか」 「淫獣って、カメレオンの分際で好き勝手言ってくれるやないか」 「で、そこのおっぱいツインテ女は何故我のステルス能力を見抜けたのですかなwwww」 「生憎あたいはあんたみたいな影薄い奴らと長い間一緒にいるからねえ」 「こうなったら強行手段以外ありえないwwww」 「っ…みんな来るよ!」 こうして彼女らと霞龍との戦いが始まった。 そして数分後、そこには草を生やす気力も失せるくらいにボロボロになって正座させられているオオナズチの姿があった。 そりゃ相手は死神に学園最強に魔法少女二人にプリキュア三人だからね。 前述した古龍ならともかくオオナズチじゃ一方的にフルボッコされてもしゃーない。 「ぐぬぬ、ここまでですかな…煮るなり焼くなり好きにするといいですぞ…」 「そういえばアンタ都庁に持ち帰るって言ったよねぇ」 「その通りですぞ。我は都庁で美少女達と同人誌みたいなことをしまくって悠々自適な生活を送るつもりだったんですぞ…」 「もしかして都庁の軍勢の一匹なんすか?」 「まだあいつらの仲間ではありませんぞ。ですが一応知り合いのロリコンドラゴンが都庁にはいるかもですなwwww」 オオナズチは元々グンマーの住人でありそのよしみで氷竜とは一応知り合いだったのだ。 本当はグンマーに持ち帰りたかったがグンマーは原住民が皆殺しにされてヤバイっぽいので都庁に持ち帰ることにしたのだった。 「と、言うことはアンタは都庁の場所を知っているわけだね」 「知ってますぞ」 「丁度いい足が見つかったじゃないか。こいつに乗せてってもらえばいいんじゃないかい?」 「そうね、それがいいと思うわ。まどかを攫った奴よりは速度が落ちそうだけど」 「えー、こいつに乗るの…?」 「サラマンダーとどっちが速いのかな」 「んんwwww持ち帰られる気になったんですかなwwww」 「今度余計なこと言うとその舌引っこ抜くよ?」 「サーセン…」 こうして彼女らの足代わりにされたオオナズチであった。 敗北したからしゃーない。 魔法少女+αは次々とオオナズチの巨体に乗っていく。 「さて、あたいも行くとするかね」 「小町さんも行くんすか?四国に行くんじゃ…」 「どうやら東京が凄いことになってるみたいだからねぇ。 この分じゃ先に九州ロボに乗り込んで主催者を倒したって殺し合いが終わるとは思えないんだよ。 どうやら後回しにすることになりそうだねえ」 「言われてみりゃそうだな。四国の方はあの忍者達に任せちまっていいかもな」 「ちょwwwwお前らも乗るんですかなwwww」 「その巨体なら全員乗れるでしょう」 「あかりも乗りたい!」 「そうだねぇ、あたいら全員拉致しようとしてたくらいだし…」 「確かに我は最大金冠のキングサイズですがなwwww」 「じゃあできないとは言わせないよ?」 「え、あ、はい…」 「まぁ重かったらあたいが一人分くらいは持ってやるよ」 「飛行中でもさやかちゃんが治癒してあげるからさ」 「ありがとナス…ですがこの程度のダメージなら問題ありませんぞwwww」 小町の『神槍』の刃の光と死神の眼光にオオナズチは逆らえなかった。 もっとも、小町は飛行能力を持っているので彼女はオオナズチに飛びつく必要は無いが。 「では行きますぞwwww」 小町以外の全員を乗せたオオナズチは歪な翼を広げて飛び立つ。 先ほどのダメージを感じさせずに上空を飛行するその様はその雄雄しい姿はまさにドラゴンそのものであった。 草を生やした口調でも、こんなヘンテコな姿でもドラゴンなんだなぁとオオナズチの横を飛ぶ小町は思ったのだった。 【一日目・22時30分/日本・大阪上空】 【小町と影薄な仲間たち】 ※メガザルの腕輪により、全員のダメージ等が完治しました。 ※飛竜たちとの情報交換して、主催達が九州ロボにいることを知りました。 【小野塚小町@東方Project】 【状態】健康、飛行中 【装備】斬魄刀『神鎗』@BLEACH 【道具】舟 【思考】基本:もう仲間を誰も失わない為にカオスロワを終わらせる 0:東京へ向かって東京の情勢を何とかする 1:もう二度と仲間を置いて行こうとしない 2:幽香と戦う事を覚悟する 【黒子テツヤ@黒子のバスケ】 【状態】健康 【装備】猟銃@現実 【道具】死出の羽衣@ 幽々白書 【思考】基本:仲間と共にカオスロワを終わらせる 1:友人たちと生き残る 2:混沌の騎士の言っていた空気中に漂う何かが気になる ※実はゴゴの死体から猟銃を回収していました。 【東横桃子@咲-Saki-】 【状態】健康 【装備】斬鉄剣@ルパン三世 【道具】支給品一式、スマホ 【思考】基本:仲間と共にカオスロワを終わらせる 1:加治木先輩や友人たちと生き残る 2:混沌の騎士が言っていた空気中に漂う何かって主催の仕業? 3:スマホを使ってネットで情報を探る 4:DMCファンだけど信者の暴動にはドン引き 【赤座あかり@ゆるゆり】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】マムルの肉×2@風来のシレン 【思考】基本:仲間と一緒にカオスロワを終わらせて主人公らしく大活躍! 1:混沌の騎士の分も頑張る 2:あかりドラゴンに乗ってるよ! 【日之影空洞@めだかボックス】 【状態】健康 【装備】己の拳 【道具】支給品一式 【思考】基本:主催者を倒す 0:東京都の情勢を何とかする 1:仲間を守る 2:混沌の騎士が遺した謎を解く 3:↑の全部やらなくちゃあならないのが先代生徒会長の辛いとこだな。 ※斬鉄剣は混沌の騎士のものを受け継ぎました。 ※不明支給品はメガザルの腕輪でしたが、効果が発動したため、砕け散りました。 【オオナズチ@モンスターハンターシリーズ】 【状態】ダメージ(中)、飛行中 【装備】不明 【道具】支給品一式、不明支給品 【思考】基本:美少女を都庁にお持ち帰りたい 0:負けたから影薄達の言うこと聞いとく 1:影薄、魔法少女、プリキュアを乗せて東京都へ向かう 2:ボレアスさんや原住民まで死んでるとかグンマーヤバくねwwww 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 【状態】ダメージ小 【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ(穢れ35パーセント) 【道具】支給品一式、ベレッタM92(残弾95)、レミントンM870(残弾20)、ミニミM249(残弾50)、M16クレイモア×10、L16 81mm迫撃砲×5、M84 閃光手榴弾×20、88式地対艦誘導弾、長ドス、ゴルフクラブ 【思考】基本:まどかを守る 1:まどかを早く助けるために東京へ向かう 2:桃園ラブに僅かに罪悪感 【ケルベロス(小)@カードキャプターさくら】 【状態】健康 【装備】無し 【道具】支給品一式 【思考】基本:桜を探す 1:えらいこっちゃ! 2:東京都におるかなぁ 【相田マナ@ドキドキ!プリキュア】 【状態】健康 【装備】キュアラビーズ@ドキドキ!プリキュア、ラブリーコミューン@ドキドキ!プリキュア、ラブハートアロー@ドキドキ!プリキュア、シャルル@ドキドキ!プリキュア 【道具】基本支給品一式 【思考】基本:殺し合いを止める。 1:ここにいるみんなと一緒に殺し合いを止める。 2:まどかを助けに行く ※前回のロワとは関係ありません。 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 【状態】健康 【装備】リンクルン@フレッシュプリキュア!、キュアスティック・ピーチロッド@フレッシュプリキュア! 道具】基本支給品一式、大量のドーナツ 【思考】 基本:絶対に殺し合いを止めて、みんなが助かる方法を探す。 1:誰かを探しながら、ワドルディを守る。 2:ここにいるみんなと一緒に殺し合いを止める。 3:まどかを助けに行く 4:ほむらはまだ少し怖いが、仲良くしたい ※9期とは関係ありません。 【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】 【状態】健康 【装備】リンクルン@フレッシュプリキュア!、キュアスティック・ベリーソード@フレッシュプリキュア! 【道具】基本支給品一式、不明支給品 【思考】基本:殺し合いを止める。 1:ここにいるみんなと一緒に殺し合いを止める。 2:さやかが何だか他人のような気がしない。 3:死んだキュアピースの分も頑張る。 4:まどかを助けに行く ※放送の内容をラブ達から聞きました。 【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】 【状態】健康 【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ(治癒魔法使用のため、穢れ蓄積中) 【道具】基本支給品一式、不明支給品 【思考】基本:マミさんの為にも、殺し合いを止める。 1:ここにいるみんなと一緒に殺し合いを止める。 2:美希が何だか他人のような気がしない。 3:まどかを助けに行く ※8期、9期とは関係ありません。 ※放送の内容をラブ達から聞きましたが、上条恭介の死を知りません。 【ワドルディ@星のカービィ】 【状態】健康 【装備】なし 【道具】支給品一式、不明支給品 【思考】基本:殺し合いには乗らない。 1:ここにいるみんなと一緒に行動する。 2:みんなの役に立ちたいけど…… ※6期とは関係ありません。 ※アニメ出展なので、喋る事ができません
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魔法つかいプリキュア! 色 出演者 備考 黄色 朝日奈みらい/キュアミラクル(声:高橋李依) 水色 十六夜リコ/キュアマジカル(声:堀江由衣) 緑色 -
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登録日:2013/08/05 Mon 07 27 25シャル/ケル 更新日:2024/07/04 Thu 20 54 03NEW!でランス/ダビ 所要時間:きゅぴらっぱ~!(約 22 分で読めます) ▽タグ一覧 (0H0) (0M0) (0w0) ( V ) (^U^) 13年冬アニメ 2013年 ABC ELEMENTS ※日曜朝8時30分です。 だが私は謝らない アニメ カオス サスペンス シリアス回多め ジャッカー電撃隊 テレビ朝日 トランプ ドキドキ!プリキュア ハイスペック揃い パロディの嵐 プリキュア プリキュアシリーズ マナハーレム メタファー レズの巣窟 一万年前のバトルファイト 七つの大罪 仮面ライダーOOO 仮面ライダーサソード 仮面ライダービースト 仮面ライダー剣 前作との凄まじい温度差 古賀豪 子供向けアニメ ←大人も楽しめるストーリー 宮本佳那子 寿美菜子 山口亮太 序盤はギスギスシーン多し 急展開の連続 愛 愛と自己中は裏表 最初から最後までクライマックス 東映 東映アニメーション 渕上舞 渡辺久美子 滅茶苦茶多い裏設定 特撮ネタの宝庫 生天目仁美 百合 稀に鬱展開あり 自己中 釘宮理恵 高橋キュア 高橋晃 響け愛の鼓動! 『プリキュアシリーズ』第10作にして8代目。 【概要】 【ストーリー】 【主な登場人物】◆プリキュア ◆トランプ王国 ◆一万年前のプリキュア ◆ジコチュー 【アイテム類】 【三種の神器】 【映画】 【エピソード】 【余談】 【概要】 モチーフは「トランプ」。テーマは「愛」 10年目を節目として、前作からメインスタッフを一新。 監督、脚本共に、シリーズ初参加となる古賀豪と、『美少女戦士セーラームーンセーラースターズ』『デジモンセイバーズ』の山口亮太を迎え、 東映のプロデューサーも3代目となる柴田宏明に交代。 キャラデザは『スイートプリキュア♪』の高橋晃を再起用。 スイートの時より線を減らして丸みのあるデザインとなっている。 音楽も『フレッシュ』からキュアメタルしていた高梨康治から高木洋に交代し、ダンスの振り付けもマエケンからMIKIKOに交代。 新旧入り混じった布陣で臨んでいくこととなった。 OP曲「Happy Go Lucky! ドキドキ! プリキュア」を歌うのは近年子役から声優業などに活動の幅を広げつつある黒沢ともよ。 Sound Horizonの第7アルバム『Marchen』で歌唱経験はあったものの、まさかの抜擢にファンは驚いた。 OP歌詞はとあるフレーズがネタになったことも。 内容は一年通してのストーリー構成に力を入れており、連続したストーリーが展開され、作風もサスペンスそのものである。 そのため伏線やサスペンス色も多く、一話から見直すと数多くの発見があり、各話の次に繋げる引きの強さも大きな特徴となっている。 味方・敵共々に設定やモチーフなどが非常に奥深く、劇中で語りきれなかった設定や小ネタも非常に多い。 主人公の設定も異例で、これまでは「特別な人間でなければプリキュアになれない」といった認識を避けるため、 平凡だけど一芸に長けた少女…が主人公だったのだが、本作の主人公は文武両道で生徒会長の地位に付いているバリバリの強い女性、であった。 それ以外の面々も何かしら特別な肩書きや能力(持ち前・努力を問わず)を持つ優れた少女ばかりである。 これもまたあえてプリキュアのタブーに切り込んでいると言えようか。 前作では採用されなかった追加戦士枠も復活し、しかも歴代でも例を見ない「それまでほぼ登場していなかった新キャラを投入」という異例の人事であった。 こうしたサプライズと、次回を楽しみにさせる地続きのストーリーは視聴者の心をがっちり掴み、 低下傾向にあった映画の興行収入については、前作とほぼ変わらずキープという下降傾向を見せかけていた当時において、その悪い空気を覆す成績を残した。 ただ逆に言うと作品単体を題材とした映画の興行収入は、本作を堺に急落していくこととなる。 尺の都合で登場できなかったキャラクターも存在し、シリーズ構成の山口のサイトではエイプリルフールのネタとしてそれらの匂わせ要素を総動員した、 後日談的なあらすじをジョーク混じりに公開。その後、小説プリキュアシリーズが登場したためそれらの展開が期待されたが、 同小説シリーズの事実上打ち切りという状況の合って、残念ながら実現が叶わないでいた。 しかし2024年、本作の10周年を記念して小説版の刊行が決定した。内容は不明。 【ストーリー】 異世界「トランプ王国」はある日、謎の勢力「ジコチュー」の侵攻を受け、崩壊の危機に陥った。 戦禍の最中、王女「マリー・アンジュ」は最後の希望を妖精たちに託し、地球へと送り込む。 やがてトランプ王国を滅ぼしたジコチューは、地球にもその魔の手を伸ばす…… 【主な登場人物】 ◆プリキュア トランプ戦隊ではない。 プリキュアシリーズと同い年だがトランプライダーも関係ない。 メンバーは変身前のスペックが高い優等生揃い。ポンコツばっかの前作とは対照的 今作以降、メンバーが全員優等生というプリキュアも増えてくる。 ♥相田マナ/キュアハート (CV:生天目仁美) ハートスートを司るプリキュア。 大貝第一中学生徒会長を務める、初の会長主人公。 度を越したお人好しで、どんな問題に対しても体当たりで解決していく猪突猛進型。運動神経も抜群で色々な部活から助っ人を頼まれている。 その身体能力は1話から発揮され、某兄貴を連想させた。ちなみにネーミングも同じ発想だとシリーズ構成から語られている。 順応性も異常で、突如現れたジコチューに説教を始めたり、プリキュアへの変身を快諾したり、そのメンタルはすさまじい。 最初は変身の勝手がわからず、ラブリーコミューン持ってライダー1号の『変身!』ポーズを取って失敗した。 あまりにも自分を顧みない献身性は「幸せの王子」と六花に渾名されるほど。 この通り完全無欠の超人に見えるが、実は音痴で乗り物酔いしやすい。 小さい頃の夢はサンタクロース、将来の夢は総理大臣。みんなの笑顔を守りたいらしい。一度泣いたら気持ちを切り替えるタイプ。 実家は洋食屋「ぶたのしっぽ」を営んでいる。看板メニューはオムライス。 パートナー妖精は「シャルル」(CV:西原久美子)。中盤で人間体に変身可能になった。 苗字が『相』から始まるハートの戦士だが偶然だろう。 ♦菱川六花/キュアダイヤモンド (CV:寿美菜子) ダイヤスートを司るプリキュア。 マナの幼なじみで生徒会書記。全国模試でTOP10に入るほどの頭脳を持つ。 医者になるのが夢。趣味はかるた。 幼少時からiPadを使いこなし(だいたい分かったわ!)、キュアラビーズを顕微鏡で見ただけで地球外物質であると断言したすごい人。 視力はあまりよくないらしく、勉強する時や遠くを見る際には赤いフレームのメガネをかける。 「幸せの王子」に対する「ツバメ」を自認しており、いつも厄介事を引き受けるマナのフォローに回っている。その関係は公式で「マナの嫁」とされるほど。 父親は冒険写真家で、部屋中には土産で送られてきた世界中の骨董品で溢れている。 チーム内では持ち前の知力を活かした司令塔を務めるが、ツッコミ 百合担当のイメージが強い。 上北ふたご先生の漫画版ではもはやガチレズ。 カエルが好き。希望の園の七騎士と会わせたらどんな反応をするんだろうか。 パートナー妖精は「ラケル」(CV:寺崎裕香)。シャルルの弟の一人である。発情期真っ盛りのまさしく淫獣。 六花→りっか→立花→たちばなとも変換出来るが謎の男は関係ないだろう。ここ一番で強かったり恋は実らなかったりするけど。 ♣四葉ありす/キュアロゼッタ (CV:渕上舞) クラブスートを司るプリキュア。 日本屈指の大企業グループ「四葉財閥」の令嬢。 父(CV 中村秀利)は世界をまたに駆け笑顔を届ける融資家、母は有名なオペラ歌手らしい。 プリキュアの情報を公にされないよう、ネット上の目撃情報などを削除する権限を持っているおそろしい人。逆らった者はクシャポイされる。 マナと六花とは幼なじみ。 幼少時は体が弱かったがマナと六花に会ったことで克服、彼女らの力になりたいがゆえ小学生の頃はピアノや習字だけでなく武道もたしなんでいた。 しかし、マナを侮辱したいじめっ子の双子とその兄(中学生)にブチ切れ、完膚なきまでに叩き伏せた経験がトラウマとなり武道の稽古をやめてしまった。 そのため最初はプリキュアの力を恐れていたが、ランスの励ましとブチ切れ事件後に武道の師でもある祖父・一郎(CV 麦人)が 「力は己の愛するものを守るためのもの。それを忘れなければ二度と力に飲まれることはない。己を磨き、心を高めよ!」 と教えたのを思い出しプリキュアとして戦うことを決意する。4話の予告は伝説。 執事のセバスチャン(CV 及川いぞう)は料理・技術・拳法なんでもござれと非常に有能な紳士。1時間前のピンクの執事にも見習わせたいもの。 防御 バックアップサポート担当。「防御こそ最大の攻撃ですわ!」 パートナー妖精は「ランス」(CV:大橋彩香)。シャルルの弟の一人で、たこ焼きが好き。中の人のネタで、時々「紫吹ランス」と呼ばれる事がある。 パートナーがランスで、クローバーはランスのシステムの元だが多分偶然だろう。 ♠剣崎真琴/キュアソード (CV:宮本佳那子) スペードスートを司るプリキュア。 「まこぴー」の愛称で親しまれる大人気の新人アイドルだが、その正体はトランプ王国最後のプリキュア。 当初は故郷を失った悲しみから単独行動を取っていたが、マナたちの優しさに触れて打ち解けていく。 地球での生活が浅いため常識は乏しく、突拍子もない行動を取ることが多々あるが、呑み込みはいい方。 しかしどこかポンコツな部分がある。あとやたら挟まれる。 トランプ王国時代から歌が得意で、前期EDではアイドル設定を活かし、主人公そっちのけでセンターを陣取った。 リアルワールドでもイメージアルバム「SONG BIRD」も出している。 真っ先に剣ネタの餌食になった人でもある(あんな人やこんな人)。 (0w0)「キュアソードの兄役とかで仕事来てほしいよね」(*1) 名前に反して剣戟戦闘を全くしないことを惜しまれているが、手刀は得意技でたまに見せることもある。(劇場版では剣を用いた必殺技あり) 中の人はかつて『プリキュア5』シリーズのEDを歌っていた。ユメミターイ パートナー妖精の「ダビィ」(CV:内山夕実)は最初から人間体にも変身でき、平時はマネージャーの「DB」として活動している。ダディではない。確かに剣崎のバディではあったが。 Α円亜久里/キュアエース (CV:釘宮理恵) ニゴリーカテゴリーエースを司るプリキュア。 中盤より参戦した追加戦士。突如として現れ、プリキュアたちを新たなステージに導くために試練を与える。 シリーズ通算2人目となる小学生プリキュアだが、変身すると口紅とアイシャドーがケバい大人になってしまう驚異のプリキュア。 すなわちロリキュアでキュアババア。年の割にはしっかりものだが、甘いものが大好きでニンジンが大嫌いなのが玉に瑕。 生みの親も誕生日も覚えていないが、茶道の名門を務める円茉莉に養女として引き取られ、亜久里も養母を実の祖母のように慕っている。 その正体はすべての世界の愛を願ったアン王女のプシュケーに満ちた心から生まれた存在だった。 かぐや姫みたいな過去持ちで、どこかルミナスを思い出すキャラである。 プリキュア5つの誓い、変身制限時間付き(5分間)、そして何より名前と、特撮ネタで溢れている。れいかさんに続く2人目のダークプリキュア5転生組。 彼女の登場で、2013年夏の釘宮病患者が風疹並みに増加した。 パートナーはアン王女の身体から転生した赤ん坊「アイちゃん」(CV:今井由香)。きゅぴらっぱ~☆ 関連商品のタオルや服に描かれているエースは口紅が無いことも多々あり、かなり若く見える。え?もともと若い? なお初登場の際はEDクレジットで名前を伏せられていたが、その話の字幕で名前がバレてしまった。 裏話として、実は本作では5人目の追加戦士はださない形で製作が進んでいたのだが、 第1話が完成した後に玩具販促的な事情で急遽「5人目の追加戦士を出す形でプロットを変更しろ」という至上命令が来たために、 「後付け」で作られたキャラというものがある。 このあたり、トランプ戦隊の行動隊長が追加戦士になった事情とまったく同じである。 偶然にしては出来すぎているといえるかも。 なおモチーフがAだが新世代ライダーは関係ない。 ◆トランプ王国 マリー・アンジュ (CV:今井由香) トランプ王国を統治する若き王女。かるたや彫刻、流鏑馬などをたしなむ多趣味なお方であり、少々おてんばなところがある。 ジコチュー侵攻時には自らも戦列に加わりキングジコチューを石化させる活躍を見せた。 地球への退避の際にキュアソードとはぐれてしまい長らくその居場所は不明だったが、中盤にてなぜか氷漬けの状態で発見される。 しかしその氷塊はダミーであり、本来は自身の心と体を亜久里とレジーナ、そしてアイちゃんに分けていた。 結局、別れた心はそれぞれ亜久里とレジーナの一つのハートになり、元の王女に戻ることは無かった。 ジョナサン・クロンダイク(ジョー岡田) (CV:櫻井孝宏) 数少ないトランプ王国の生き残り。王国騎士にして王女の婚約者でもある。 ジコチュー侵攻時には辺境の警備任務に就いていたため、王都に戻った時には既に手遅れだった。 地球に移った後は骨董屋「ソリティア」を営みながら新たなプリキュアの有資格者を探していた。 言動がとにかく胡散臭いため大友たちには変質者として見られている。 名前の由来は「ジョーカーだ」と思われる。前例でコイツがいるが…どうなんだろうか。 終盤まで出番がなかった(偽者は登場したが)ので視聴者から色々と心配されていたが、エターナルゴールデンクラウンを手土産に戻ってきた。 最終回では王女とは離別するハメになったが、トランプ共和国の初代大統領となった。 ちなみに櫻井氏のジョナサンだからといって悪魔城をラブホ代わりにしたりショータイ!と叫んだりはしない。 なお、トランプ王国にはキュアソード以外にもハート、ダイヤ、クラブスートのプリキュアがいたとされるが、ジコチュー侵攻時に2人の幹部と刺し違えた。 実際に戦死した訳ではない様子で、山口亮太氏が「プリキュアのパワーで封印したというレベル」と語っている。 プロトジコチューが倒された時点でジコチューに滅ぼされた世界や王国のプリキュア達は復活したとのこと。 ◆一万年前のプリキュア キュアエンプレス (CV:飯塚雅弓) かつて大いなる闇から世界を救ったプリキュアの一人にして、貴重な緑キュア。 プリキュアになれたよ!やったねミユキさん! パートナー妖精は亀や龍に変身する「メラン」(CV:松岡洋子)で、鏡の所有者に相応しいか否かマナたちに試練を与える。 恐らくはマナの先祖であると思われる。 また、エンプレスの他にもキュアマジシャンとキュアプリーステスという2人の戦士がシルエットで登場している。 トランプ王国のプリキュアや古代のプリキュアは、プリキュアの番外戦士に該当する。 『オフィシャルコンプリートブック』でも触れられている。 ◆ジコチュー 今作の敵勢力。 由来のひとつは七つの大罪。 詳細は個別項目を参照。 【アイテム類】 ラブリーコミューン 妖精が変身するスマートフォンで、通話も可能。 この状態で額に変身用キュアラビーズをセットし、「プリキュア・ラブリンク!」の掛け声と共にモニターに「L,O,V,E」をスライドタッチすることでプリキュアに変身できる。 L・I・O・Nではない。 キュアラビーズ 今回のプリキュア版オーメダル。変身用や必殺技用などの様々な種類がある。 トランプモチーフなのにどうしてカードにしなかったんだろう。翌年のハピネスチャージプリキュア!でのコレクションカード要素展開を見越してだろうか。 ラブハートアロー 可変弓型強化装備。収納状態と展開状態に変形し、強化必殺技と合体必殺技を発動するために召喚する。 よく見るとウインクの時の光が各スートの形をしている。 醒弓カリスアローではない。 ラブアイズパレット キュアエース用の変身アイテム。トランプ王国の秘宝「ロイヤルクリスタル」が五つ収められている。 これらにチップペンをタッチし、「プリキュア・ドレスアップ!」の掛け声と共にアイシャドウを塗り、鏡を見て瞳にハートが映るとキュアエースに変身できる。 ラブキッスルージュ キュアエース用の攻撃アイテム。やたらデカい口紅。色で発動する効果が異なる。ばきゅーん 去年のスマイルパクトと同様に、プレミアムバンダイで大人向け商品が販売された。 ブラッドリング リーヴァとグーラを取り込んだベールが彼らのジャネジーを利用して生み出した指輪で、イーラとマーモに着けさせた。 つけたら最後、外すこともできない。オマケに逆らおうとすると電流が迸ってしまう。 だが、このリングを装着させられたイーラとマーモは今まで以上に強力なジコチューを生み出すことが可能になった。 38話にてベールが2人からリングを外して自身のパワーアップに使用するが、プリキュアとの勝負の際に破壊されて消滅した。 指輪の魔法使いとは関係ない。 【三種の神器】 一万年前、世界が闇に覆われたときに現れたプリキュアが所持していた伝説のアイテム。槍・鏡・王冠の三種。 モチーフは日本神話の三種の神器。 ミラクルドラゴングレイブ あらゆる物を貫く光の槍。アン王女はこの槍を用いてキングジコチューを封印した。 王国崩壊後は王宮の地下に封印されていたが、レジーナによって引き抜かれ、強奪されてしまう。 一度はジャネジーを受けて禍々しい紫の光に染まるが、終盤レジーナの瞳が青に戻ると、それに合わせて白銀の輝きを取り戻した。 モチーフは草薙剣(天叢雲剣)。 グレイブだがありすの相方は特に関係ない。 マジカルラブリーパッド あらゆる真実を映し出す水晶の鏡。メランはこの鏡を長年守っていた。 一度はリーヴァ達に砕かれてしまうが、マナ達の諦めない心に呼応し、タブレット型アイテムに変化してプリキュア達に新たな力をもたらす。 更には竪琴形態の「マジカルラブリーハープ」となって、5人のプリキュアを翼の生えた「エンジェルモード」へと昇華させる効果も発揮できるようになった。 強化必殺技、および合体必殺技「ラブリーストレートフラッシュ」・「ロイヤルラブリーストレートフラッシュ」の発動を可能とする。 モチーフは八咫鏡。 エターナルゴールデンクラウン あらゆる知識が詰め込まれた黄金の冠。ジョナサンが持ってきたもので、亜久里とレジーナが被ると全ての真実を知った。 かつてはトランプ王国の地下で一万年前のプリキュアが倒した闇を封じる役目を持っていたが、 アン王女が病に倒れた際にトランプ国王が娘を救う一心で封印を砕き、この王冠を得たことがジコチュー出現の発端となった。 モチーフは八尺瓊勾玉。 【映画】 プリキュアオールスターズ NewStage2 こころのともだち 2013年3月16日公開。 スマイル組と次回作の「NewStage3」でキュアエコーのパートナーとなる妖精のグレルとエンエンと共にメインを飾った。 マナ結婚!!?未来につなぐ希望のドレス 2013年10月26日公開。東京国際映画祭特別招待作品。 未来を壊しタイムパラドックスを引き起こさんとする者にプリキュアが立ち向かう。 タイトルがタイトルなので大友たちは気が気ではなかったが、最悪の事態は回避された。 なんと流血シーンがある。 ハートとエース以外は新技を披露した。 2番の歌詞にある「マシュマロ マロ マロ」の意味は、本作を観ることで分かる。 エキサイトニュースでは伊藤尚往監督へのインタビューがある。 肉弾戦やキュアエースの立ち位置に関する興味深い話も挙がっているので、是非とも見てみよう。 なおオールスターズ外の単独プリキュア映画としては、現状数値だけ見れば歴代最高の興行収入を叩き出したのは本作である。 しかし先の通り、次回作以降はライバル作の台頭や、オリジナルアニメ映画の台頭も相まって、どんどん興行収入を落としていくこととなる。 プリキュアオールスターズ NewStage3 永遠のともだち 2014年3月15日公開。 ハピネスチャージ組と共にメインを飾った。 プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪ 2015年3月14日公開。 キュアハートとキュアダイヤモンドが声付きで登場で、残りのメンバーは声なし(なお、キュアソードの声の人はこの映画の公開当時では声優を休養中だった)。 プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法! 2016年3月19日公開。 キュアハートとキュアダイヤモンドが『春のカーニバル♪』に引き続き、残りのメンバーが『NewStage3』以来声付きで登場。 (同時に本作品のプリキュア全員が声付きで登場するのは『NewStage3』以来) さらにプロトジコチューがこの映画の悪役が作り出した幻として初登場。 【エピソード】 1話:地球が大ピンチ!残された最後のプリキュア!! 35話:いやいやアイちゃん!歯みがき大作戦! 37話:なおせ好きキライ! ニンジンVS亜久里 【余談】 山口亮太によると相田マナは相田愛とも表記され、前述の通り大門大と同様のネーミング方法とのこと。 大門大=「大問題の男の子」、相田愛=「愛だよ愛!!」。 ちなみに桃園ラブは生まれた時に桃園愛と名付けられる予定だった。 子供も大人もこんな悲劇に見舞われたそうな。 今年も『アニメージュ』が特集や付録に力を入れている。 描き下ろしの一部は商品展開用のイラストとして流用された(絵のタッチは異なる)。 グルトのCMは後期EDのCGと歌詞を改変したもので、やたら気合が入っている。 更に新聞広告も凄すぎる。 2013年3月発売の『おはなしブック』にはふたご先生描き下ろしの番外編が収録。 そして2014年3月発売のふたご先生版の単行本は、『スプラッシュスター』第1巻から実に8年ぶりのものとなる。 最終話も描き下ろしとして収録され、5人全員のパルテノンモード 特殊コスチュームのレジーナが登場している。 おなじみの『まるごとブック』と同時発売(こちらはハピネスのカラー漫画あり)。 また、スマイルから続く『アニメディア』編集部による『オフィシャルコンプリートブック』も同月の発売である。 キャラクターやストーリーの紹介、スタッフや声優インタビュー、版権絵や設定画、初出の設定など盛り沢山の内容となっている。 2014年3月末にはTwitterにおいて映画のDVD実況が行われ、山口氏も実況に参加している。 その後、ファンとの質疑応答では様々な裏設定や裏話が明かされ、中には『オフィシャルコンプリートブック』でも語られなかったものもある。 2014年10月からはウェブサイトnoteにて山口氏による『ドキドキ!プリキュア回顧録』として1年に渡り更新された。 今回ここで初めて明かされた内容も多い。 先述のふたご先生の漫画版だが、何と売り出したその日に即日完売。 講談社は急遽同年4月に増刷版を発行したが、どういうわけか書籍取次ぎ最大手の日本出版には納入しなかったのか出来なかったのかは不明だが、 Amazonや楽天、セブンネットショッピング等のネット通販大手と販路を結んでいる書籍取次ぎ第二位のトーハンだけに納入した。 それでも、各通販サイトでは一週間ともたず、現在は品切れ重版未定となっている。 2014年12月から『プリキュアコレクション』として歴代シリーズの単行本が発売され、 全巻購入特典としてカラーイラスト集とドキドキの着せ替えカバーがプレゼントされている。 着せ替えカバーの仕様は『プリキュアコレクション』に合わせたデザインになっている。 2015年2月には『高橋晃 東映アニメーションプリキュアワークス』が発売。 プリキュアワークスとしては、5とスマイルの川村敏江ワークスに続き2冊目となる。 (『ハートキャッチ』も収録されている『馬越嘉彦 東映アニメーションワークス』を含めると3冊目) カバーは描き下ろしで、『プリキュア10周年公式アニバーサリーブック』の高橋氏の寄稿イラストと同様にレジーナも一緒に描かれている。 スイートとドキドキの版権絵や原画、インタビュー記事が収録。 Wiki籠り5つの誓い 一つ、Wiki籠りたるものいつもモニターを見て編集し続けること 一つ、項目は立てるもの 一つ、項目を愛することは編集し合うこと 一つ、Wiki籠りたるもの自分の編集を信じ決して後悔しない 一つ、Wiki籠りたるもの一流のアニヲタたるべし 試練は始まったばかり。早く立派な項目を作り上げなさい。では、アデュー! △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] コメント欄が長くなってきたのでリセットしました -- 名無しさん (2014-10-31 18 08 46) MXで再放送オメ -- 名無しさん (2014-11-02 23 41 42) 過去のコメントってもう見れないんですか? -- 名無しさん (2014-11-04 18 51 21) ホントにガチでOVAで続編一本作ってほしい。 -- 名無しさん (2014-11-10 00 25 12) ↑ドキドキの前にハートキャッチを -- 名無しさん (2014-11-10 00 35 45) ↑2 ルスト&ゴーマが復活の番外編とか見れたら、キュンキュンしちゃうね -- 名無しさん (2014-11-10 03 46 19) ルスト「相田マナ!その力で私を処刑するか!」「あたしに質問するなー!」とか「負けましたわゴーマ。私としたことが忘れておりました。人は皆ぁっ!プリキュアだということを(取り消して下さいの形相)」とかですか -- 名無しさん (2014-11-10 09 21 09) ドキドキとスイートのキャラデザさんの画集が出るのか…胸がキュンキュンするな! -- 名無しさん (2014-11-30 19 14 42) ハトプリ、yesスマイルに続きドキドキもか! ↑7 編集履歴から見れるよ ただコメントが増えると流れちゃうのでお早めに -- 名無しさん (2014-11-30 22 04 42) プリキュア五つの誓いとかの特撮パロやトランプ国王をエースらが救出する構図がまんまGガンだったりと、この作品パロディ多いよね おじさんには嬉しい作品ですよ! -- 名無しさん (2015-01-07 22 34 55) この作品の10話(高橋ナツコ脚本回)は余程衝撃的なのか、幼稚園雑誌どころか上北ふたご先生の漫画でもネタになった。 -- 名無しさん (2015-02-02 20 51 57) この作品のおかげで剣を見直すことができた。ありがとう。 -- 名無しさん (2015-03-20 11 35 55) 剣だけに限らず、特撮パロふんだんにあったけど、要所要所で働くベールがすごい楽しかったわ。ありがとう。 -- 名無しさん (2015-03-20 22 17 04) ラルクという単語は出てきてないよね。 -- 名無しさん (2015-03-31 09 20 13) キャラクターや世界観や設定はメチャクチャ魅力的なんだけど、どうも百合豚に媚びてる感があってそこだけ残念だわ。 -- 名無しさん (2015-04-22 17 02 03) なぎほのの時点で百合好き歓喜のネタ満載だったがあっちは媚びてねぇのか -- 名無しさん (2015-06-01 11 43 46) 他作品のプリキュアより名乗りが短い点と一部の技に”プリキュア”がついてない点はいただけないがストーリーは面白かったぜ -- 名無しさん (2015-07-31 23 31 20) シリーズは戦闘重視で見てるから、ほとんど必殺技バンクだけで終わる本作は、なんか残念だった…… -- 名無しさん (2015-08-01 00 17 39) ↑4 制作側は別に百合を意識して作ってる訳じゃないし、そちらがそういう見方してるからそう感じるんでしょうよ -- 名無しさん (2015-08-01 09 50 48) リーヴァの声はさんかくまんだ -- 名無しさん (2015-08-10 17 49 15) 岡田がイケメン過ぎる……。割りと本気で。最終的には一番報われなかったのにあの笑顔。プリキュアの男で最も尊敬できるキャラだわ。 -- 名無しさん (2015-11-01 11 09 19) このアニメ -- 名無しさん (2015-11-02 02 15 32) このアニメって何か金色のガッシュのパロディっぽいものもあった気がします。ファウードみたいなのがいましたし。 -- 名無しさん (2015-11-02 02 17 21) 岡田→ブルー→カナタ この頃からイケメン連続登場だなwww -- 名無しさん (2016-01-14 12 46 53) 西住姉妹が揃って出てたんだな -- 名無しさん (2016-02-08 04 02 57) 前作はオールスターズや5のパクリでガッカリしたけどこれは本当面白かった。伏線回収も凄い -- 名無しさん (2016-02-08 06 24 24) スマイルはパクリというか監督とキャラデザがそれぞれ一緒だね、確かに似た展開も割とあるけれど。ドキドキは小説やらOVAで裏設定見たいな -- 名無しさん (2016-02-08 07 41 36) 再放送で見とるが面白いな。明るさと暗さのバランスがいいと思う -- 名無しさん (2016-04-27 01 23 43) 侵略された異界が敵の本拠地・助っ人ポジションのイケメン・敵でも弱っていたら助ける話・最終決戦は主人公単独で決着と、後のハピプリやゴープリのフォーマットになっている要素も多いね -- 名無しさん (2016-04-27 12 03 18) ラブラブラーブ♪ -- 名無しさん (2016-04-28 12 42 30) 最近発売された絵本かなんかで岡田と王女の結婚式の絵があってやるせない気持ちになった。岡田は悔いはないんだろうけどね… -- 名無しさん (2016-04-28 14 20 45) 何でタグにパロディの嵐って書いてあるの? -- 名無しさん (2016-05-09 00 12 16) ↑↑小説版ドキプリが出るとしたら、マリー王女の消滅を認められなくて彼女を蘇らせるためにジコチューに魂を売って敵側になりそう。…先代の三人のプリキュアのうちの一人が…!! -- 名無しさん (2016-05-09 00 43 35) 櫻井のジョーで009を思い浮かべたのは俺だけ? -- 名無しさん (2017-02-16 22 30 43) わりに途中でいろいろ路線変更したのが表に出てる作品。終盤の展開がほぼ後付要素からというのも興味深い。初期プロットはどんなんだろう -- 名無しさん (2017-02-18 20 00 07) エース登場やそれに合わせてリヴァグラ登場とかあったけど、大筋そのものはあまり変わっていないじゃないかなぁと思う。岡田関連はもっといろいろあったように思うけども -- 名無しさん (2017-02-18 20 44 42) 相棒最終回に登場してて吹いたわw右京さん本当に調べたのかw -- 名無しさん (2017-03-23 07 07 34) 右京さんみたいなジコチュー幹部案があったってコンプリブックにあったけど、まさか本当にコラボしてしまうとは -- 名無しさん (2017-03-23 07 19 20) 最後の希望にウィザードのリンク仕込まれてるの草 -- 名無しさん (2018-07-14 18 06 23) 急に小説版の発売が来た。レジーナもちゃんといるな -- 名無しさん (2024-01-26 08 55 36) 小説新キャラのシルエットが公開されたが、ゴーマとルストは確定であと一人はありす兄のヒロミチかコレ? -- 名無しさん (2024-07-04 20 54 03) 名前 コメント
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夏の夜は、なんだか街灯の光までもがあたたかい。こんな夜だから、尚更なのかな。 アタシはシフォンが居なくなって急に寂しくなった両手を、胸の前で組み合わせた。 「ラブちゃんは、やっぱり凄いね、美希ちゃん。」 隣りを歩くブッキーが、ゆっくりとささやくように言う。 「そうね。」 アタシは短くそう答えながら、さっきの光景を思い出していた。 ――もしよかったら、このままうちにおいでよ。 せつなに、そう力強く声をかけたラブ。 そんなラブの言葉を支えるように、穏やかに頷いてみせたおじさん。 戸惑い俯くせつなを、その涙ごとやさしく包み込んだおばさん。 あの三人なら、きっと心から、せつなの家族になっていくだろう。 そして――。 「ラブはもちろん、凄いけど・・・」 アタシはそう呟いて、空にひときわ強く輝く星を見つめる。 「せつなも、凄いわ。」 管理された世界――命すら自分のものではない世界で、懸命に生きてきた子。それなのに、信じていたものに裏切られ、捨てられた。頼りにしていたものが崩れ去ってしまう哀しみと虚しさは、ほんの少しなら、アタシにもわかる。 それでもせつなは、新たに知った大切なものを、守っていくと決めた。ひとつひとつやり直していくために、精一杯頑張ると言い切った。その真っ直ぐさ、ひたむきさが、アタシには眩しい。 「・・・うん。そうだね。」 ブッキーが、いつもより一層やさしい眼差しを、アタシに向ける。 アタシたちはそれきり黙ったまま、空の光と地上の光が照らし出す夜のクローバータウン・ストリートを、それぞれの家へと、静かに向かったのだった。 四つ葉になるとき ~第1章:届け!愛のメロディ~ Episode2:夕焼けとメロンドーナツ 「へぇ。せつなさんの机は、おじさんが作ってくれたの?」 「ええ。」 ブッキーの言葉に、せつながニコリと笑って頷く。 「確か、ラブの机もそうだったよね。もう、日曜大工の域を超えてるんじゃない?」 「えへへ~。」 美希たんににんまりと笑い返して、あたしは隣りに座るせつなの顔を、チラリと見やる。お父さんのことをほめられるのは、嬉しいって言うより照れくさいけど、今はせつなが幸せそうなのが、何より嬉しい。 公園を吹く風が、昼間に比べればほんの少し、涼しくなってきたみたい。今日は一日、タケシ君とラッキーの運動会の練習に付き合って、これから四人でお疲れ様のドーナツタイムだ。 「いいなぁ。うちのお父さん、そういうの、からきしダメだから。この前なんて、病院にある棚を直そうとして、逆に壊しちゃったの。さすがにしばらく落ち込んでた。」 「うちは、ママとアタシじゃあ、どうにもならないから・・・。あ、そういえば前にラブのお父さんが、うちの店のマガジンラック、直してくれたってママが言ってたわ。」 そこでせつなのいぶかしげな視線に気付いたんだろう。美希たんがこちらに顔を寄せて、小声で尋ねてきた。 「ラブ、せつなにまだ話してないの?うちのこと。」 「あ、うん・・・まだ、その・・・。」 あたしがもごもごと口ごもっているうちに、美希たんはせつなの方に向き直ると、微笑を浮かべながら、さらりとした調子で言った。 「うちはね、両親が離婚してて、ママとアタシの二人暮らしなのよ。」 「・・・離婚?」 「そう。アタシがまだ小さい頃にね。」 「そうだったの。」 テーブルに視線を落とすせつなに、美希たんは顔の前で手を振って、明るい声でこう付け足した。 「ああ、でも、パパとはそれきり会ってない、なぁんてわけじゃないのよ。現に、今度の日曜日にも、会いに行くことになってるし。 今は弟の和希と隣町に住んでるから、一カ月か二カ月に一度は会いに行ってるの。弟とは、もっとしょっちゅう会ってるしね。」 「そう。」 これ以上なく短いせつなの言葉。でもその中に、何だかあったかい響きが混じっている気がして、あたしはせつなの横顔に目を向ける。と、そのとき、テーブルを見つめていたせつなが、顔を上げてまっすぐに美希たんを見た。 「それで、どうして美希と美希のお母さんじゃ、どうにもならないの?」 「え?何の話?」 一瞬ポカンとした美希たんに、せつなは小首を傾げながら、真剣な顔で続ける。 「日曜大工・・・って言うんだったかしら。それって、男の人じゃないと、できないものなの?」 「ああ、その話。いやぁ、そんなわけじゃ・・・。」 美希たん、なんか焦ってヘンな顔になってる。せつなは別に、責めてるわけでも何でもなくて、ただ疑問に思ったことを質問しているだけなのに。 「ほ、ほら!ママは美容師だから、手を怪我したら仕事出来なくなっちゃうでしょ。アタシもモデルだから、怪我するわけにはいかないのよ。」 「え・・・日曜大工って、怪我するの?」 美希たんの説明を聞いて、さっきとは一転、心配そうに眉をひそめるせつな。その顔を見て、美希たんの慌てっぷりがピークに達した。 「あ、ああ、違うのよ、せつな。おじさんみたいに上手な人は、怪我なんかしないから!ほら、アタシやママは慣れてないから・・・いや、アタシだって、慣れれば・・・ううん、気を付ければ、大丈夫なのよ。だから、心配しないで!」 「美希ちゃん・・・日曜大工、やるつもりなの?」 ブッキーがいたずらっ子のような目をして、美希たんの顔を覗き込む。思わずブッと吹き出すと、ブッキーもこらえきれなくなったのか、フフッ、と笑いを漏らした。恨めしそうにあたしとブッキーを見ていた美希たんも、やがて照れ笑いから、そのまま笑顔になる。 一人だけ状況が掴めずにポカンとしているせつなに、さて何て説明しよう・・・と思っていると、 「はい、お待ちどうさま~。」 タイミング良く、カオルちゃんがドーナツを入れたバスケットを持ってやって来た。 「あれ?カオルちゃん。この緑色っぽいドーナツは、なぁに?」 ブッキーがバスケットを覗いて尋ねた。バスケットの中には、あたしたちが頼んだドーナツセットのほかに、薄い緑がかった色をした小ぶりのドーナツが四つ、窮屈そうに押し込まれている。 カオルちゃんが、サングラス越しにあたしの顔を見て、ニヤッと笑う。 「これ、お嬢ちゃんには一度食べてもらったよね。試作品のメロン味。あのとき反応薄かったから、おじさん頑張っちゃって、ずいぶん改良したんだよ~。」 グハッ!といつもの調子で笑うカオルちゃんの顔と、バスケットの中身に何度か目をやって、あたしはやっと思い出した。 そう、あのときだ。せつながイースだったって知って、悲しみに暮れていた、あのとき。美希たんに強い言葉をぶつけられて、思わず家を飛び出してしまった、あのとき。どこをどう歩いてきたかもわからないまま、気が付いたら、ここまでやってきていたんだった。 そういえば、確かにカオルちゃんに、ドーナツの感想を訊かれたような気がする。 「ごめ~ん、カオルちゃん。あのとき、あたし色々考え込んでて・・・。」 「いーのいーの。悩みは青春のビタミンだよ。さっ、こっちもビタミンたっぷりだから、食べてみてよ!」 そう言われて、あたしたちは揃ってメロン味のドーナツに手を伸ばす。一口食べると、甘いメロンの味と香りが口いっぱいに広がって、全員がぱぁっと笑顔になった。 「う~ん、美味しい!」 「ドーナツなのに、メロンの味が濃厚だわ!」 「すっごく美味しいよ、カオルちゃん!せつなっ、せつなも美味しい?」 「ええ、とっても美味しいわ!」 あたしたちの反応に、カオルちゃんが満足げに頷く。 「なるほど、本物のメロンの果肉を使っているわけか。贅沢よね。」 美希たんが、かじりかけのドーナツをじーっと見つめて、感心したようにつぶやく。ドーナツの中には、ジャムのように煮込んだメロンが入っているのだが、これが結構たくさんで、切り方も大きい。メロンの味をしっかり感じられるのは、このためみたいだ。 「高級感もあるし、何より美味しいし。お土産なんかにも、ぴったりなんじゃない?」 「でも、カオルちゃん。」 弾んだ美希たんの声とは裏腹に、ブッキーが少し心配そうに、カオルちゃんの顔を見上げる。 「これ、いくらで売るの?こんなにたっぷりメロンが入っていたら、それなりに高い値段じゃないと・・・」 「う~ん、そこが問題なんだよね~。」 カオルちゃんが、太い眉毛を八の字にして、顎に手を当てる。 「赤字にはできないけど、おじさん、値段上げるの嫌いなんだよねぇ。ドーナツって、ただでさえ揚がっちゃってるから~。グハッ!」 「やっぱり、売るとなったら色々難しいわけね。」 ぼそっとつぶやいた美希たんの顔を、せつなが真面目な顔で見つめている。それを見て、あたしは密かにドキリとした。あ、ヤバい。ひょっとして、せつな、また何か疑問に思って・・・。 あたしが話題を変えようと、思い切り息を吸い込んだそのとき。ブッキーがパッと顔を輝かせて、のんびりと言った。 「あ・・・。ほら見て!きれいな夕焼け~。」 吸い込んだ息をはぁっと吐き出して、後ろを振り返る。ブッキーの向かいに座っているあたしからは、丁度背中に当たる方向。うっそうと茂る公園の木々の向こう側に、もこもこした雲を真っ赤に染めた夕焼けが広がっている。 「ホント。きれいねぇ。」 穏やかにそう言う美希たんの横顔も、気が付けば夕陽を浴びている。それを見ていたら、何だか不思議な気持ちになった。 どうしてだろう。美希たんのお父さんとお母さんの離婚の話が出ると、決まってあの頃に見た、夕焼けに染まる街の景色を思い出す。さっきもそうだった。 実際は、夕陽に照らされていたのは美希たんじゃなくて、美希たんのお母さんのレミおばさんなんだけど。目に焼き付いているのは、美希たんの名前を呼びながら、夕暮れの通りを駆けていくおばさんの後ろ姿だ。 (ちょうど同じ頃の出来事だから、きっと記憶が繋がっちゃってるんだね。) そう思ったとき、 「ラブ?どうかした?」 当の美希たんに、怪訝そうな声で呼びかけられた。 「い、いやぁ、何でもないよ。」 あたしは笑ってごまかすと、手に持ったままだったメロンドーナツの残りを、一気に頬張った。 ☆ その日の夕ご飯が終わったときのこと。 「今日は、デザートにいいものがあるんだよぉ。取引先の人から、頂いたんだ。」 お父さんがそう言って、嬉しそうにあたしとせつなの顔を見つめた。 「パッションフルーツって、知ってるかい?二人とも。」 途端に、お茶を飲んでいたせつなが盛大にむせた。 「おい、せつなちゃん。大丈夫かい?」 「あらあら。お茶、熱くなかった?火傷したりしてない?」 驚いて声をかけるお父さんとお母さんに、せつなは真っ赤な顔で、しきりに頷いてみせる。 「ご、ごめんなさい。大丈夫。」 「あははは~。せつな、そんなに慌てて飲むからだよぉ。」 あたしはこみ上げてくる可笑しさを引きつり笑いでごまかしながら、せつなの背中をトントンと叩く。お母さんが、そんなあたしたちを見て安心したように微笑むと、席を立って、冷蔵庫へ向かった。 「じゃあ、早速頂きましょうか。」 「ああ、食べ頃だっていう話だったしな。切り方、わかるかい?」 お父さんが、いそいそとついていく。そんな二人の後ろ姿を眺めながら、嬉しくなったあたしはつい、余計なひと言を言ってしまった。 「わーい、パッションフルーツだって。熟れたてフレッシュだねっ、せつな。」 その瞬間。せつなの右足に向こうずねを直撃されて、あたしは声も出せずにテーブルに突っ伏して呻いた。 「ラブー。これ、そっちに運んでくれるぅ?」 何も知らないお母さんの呑気な声。 「は、は~~いぃ。」 あたしは、澄ました顔で食器を片付けているせつなを涙目でにらむと、そろそろと台所に向かった。 その夜、パジャマ姿のせつなが、あたしの部屋にやって来た。 「さっきのことなら、別に謝らなくてもいいよーだ。」 そう言って口をとがらせてみせると、せつなはクスクスと笑ってから、 「別に謝るつもりはないわ。」 と、相変わらず澄ました顔で言った。ちょっと憎たらしい。 タルトとシフォンは、またゲームに夢中になっている。夜更かししないように、ちゃんと言っておかなくちゃ、と思いながら、せつなと並んでベッドに腰掛けた。 「そうじゃなくて、美希のこと。」 笑ったことで口が軽くなったのか、そこまではすんなり言えたせつなだったが、そのあと、しばらくためらった。 「ねぇ、ラブ。昼間言ってた、美希のご両親の離婚の話なんだけど。」 せつなが上目遣いに、あたしの顔を見る。 「どうして、離婚することになったの?」 せつなの瞳に、哀しみの色が浮かんでいる。最近のせつなは、イースだった頃のことを思い出して、時々こういう目をしていた。でも今のは、自分のことじゃなくて、美希たんのことを思っての哀しみだろう。 あたしは、膝の上に置かれたせつなの手に、自分の手を重ねると、その深い朱を帯びた瞳を覗き込んだ。 「離婚の理由は、あたしも知らないんだ。そういうことって家族の問題だから、いくら美希たんと幼馴染でも、簡単には訊けないことだし。」 「そうなの。」 「でもね。」 あたしは俯きかけたせつなの瞳を、もう一度覗き込む。 「どういう理由があったとしても、おじさんとおばさんは、きっと家族のこれからの幸せを、一生懸命考えて決めたんだと思うよ。」 「どうして?家族がバラバラになって、寂しくないの?家族みんなで一緒に暮らせることが、幸せなことなんじゃないの?」 せつなは、あたしの顔をにらむようにしてそう言ってから、フッと膝の上に視線を落とした。 「私ね、ラブ。」 せつなが顔を上げずに、ぽつりとつぶやく。 「家族なんて、持てるだけで幸せなんだから、たくさん居たって、そのうちの一人しか居なくたって、同じだろうって思ってたの。でも今は、家族のうちの一人が欠けても、とっても寂しいと思う。 家族はひとりひとり、それぞれ違って、それぞれ大切なんだって、私、この家に来て教わったわ。」 「そうだね。」 あたしの手に、力がこもる。パッションフルーツを囲んでみんなで笑い合った、さっきの食卓の風景がよみがえった。 「ホント言うとさ。美希たんのお父さんとお母さんが離婚したって聞いたとき、あたし、レミおばさんに頼みに行こうとしたの。もう一度、おじさんと和ちゃんを呼び戻して、って。」 この話は、美希たんにはもちろん、ブッキーにも話したことはない。 「結局、お母さんに止められて、悲しくてわんわん泣いちゃった。そのとき、お母さんに言われたの。」 「さっき、ラブが言ってたこと?」 「そう。それとね、家族のカタチはそれぞれみんな違うんだから、家族の幸せのカタチも、みんな違うのよ、って。」 小さなあたしにそう言い聞かせたお母さんの顔を、あたしは今でもハッキリと覚えている。怖いくらいに真剣な顔だった。言われた言葉の意味は、あのときはさっぱりわからなかったのに、その内容をちゃんと覚えているのは、そのせいなのかもしれない。 「幸せの、カタチ・・・。」 小さくつぶやくせつなに、あたしはそっと笑いかける。 「ねぇ、せつな。前に、話したことあったよね。あたしたちは生きてるから、どんどん変わっていっちゃうよね、って。」 「そうだったわね。」 あれは、あたしたちが入院しているときだった。少し辛そうに顔をそむけるせつなの手を、あたしは想いを込めて、もう一度握り直す。 「幸せのカタチも、家族のカタチも、そうなのかもって、あたし思うんだ。不幸はいつでも幸せに生まれ変われるんだもの。 美希たんは、寂しい思いもいっぱいしたと思うけど、おじさんや和ちゃんと会える時間を、今では凄く大切にしてる。それって、今の美希たんにとっての、家族の幸せのカタチだからなのかもしれないよ。あたしはそんな美希たんの幸せを、応援したいんだ。」 途中からじっとあたしの目を見て話を聞いていたせつなが、また少し俯いて考え込む。 「ねぇ、ラブ。もうひとつだけ、訊いてもいい?」 しばらくして、せつなが俯いたままで口を開いた。 「美希は、寂しい思いをどうやって、家族の幸せのカタチに変えていったのかしら。」 その言葉を聞いたとき、あたしの目の裏にまた、夕焼けに染まる街の景色が、鮮やかに広がった。 ――隣町の公園の方が、すべり台も大きいし、ブランコも待たないで乗れるんだって! そんなことを言い出したのは、あたしだったような気がする。小さな三人でテクテク歩いてたどりついた公園は、広い割に人が少なくて、あたしたちはしばらく夢中になって、すべり台やブランコで遊んだ。 そのうち三人でかくれんぼを始めて、しばらくしてから、事件は起こった。美希たんが、いくら探しても見つからなかったのだ。 夕方になり、半べそをかきながら帰ってきたあたしとブッキーの話を聞いて、レミおばさんは大慌てで飛び出して行った。やがておばさんに連れられて帰ってきた美希たんは、公園でずっと隠れていた、と言った。ブッキーと二人で、あんなに必死になって探したというのに・・・。 でもあの後から、美希たんが――おじさんと和ちゃんが居なくなって、ずっと元気がなかった美希たんが、少しずつ――ほんの少しずつだけど、明るくなったような気がした――。 「あたしもそれは、よく知らないんだ。」 あたしはパチパチとまばたきをして、小さい頃の光景を再び胸に仕舞うと、せつなに向き直る。 「だから、せつなが直接、美希たんに訊いてごらんよ。」 「私が?」 驚くせつなにニヤッと笑いかけて、あたしは言葉を繋ぐ。 「あ、今すぐにってわけじゃないよ。せつなと美希たんが、もっとお互いのことをよく知って、いろんな話が出来るようになったら・・・そのときは、そういうことも話せるようになるんじゃないかな。」 昼間の美希たんとせつなの会話を思い出す。美希たんは、何だかやたらと焦っていたけど、今日はあたしも知らない、美希たんの別の顔が見られた気がした。 そう。友達のカタチだって、みんな違う。四人居れば・・・えーっと何通りだっけ、とにかくそれぞれが、違うカタチを持っている。 そして、それは変わっていく。変えられる。そのことは、あたしもせつなも、よく知っていることだ。 「私に・・・出来るかしら。」 不安そうなせつなの声に、あたしはここぞとばかりに、力強く頷いてみせる。 「もっちろん!」 明らかに力が入りすぎたその声に、せつながクスッと笑う。 「じゃあ私、精一杯がんばるわ。」 穏やかなせつなの目に、今はもう、哀しみの色は無かった。 ☆ 次の日も、あたしたちはタケシ君とラッキーの練習のお手伝いに、四つ葉町公園へやって来た。 「よぉ、お嬢ちゃんたち。今日も、ワンちゃんの練習かい?」 開店準備をしているカオルちゃんに、声をかけられる。 「うん。終わったらドーナツ食べに来るからねっ、カオルちゃん!」 そう言って行き過ぎようとしたあたしは、立ち止まったまま動かないせつなに気付いて、慌てて足を止めた。 「・・・あっ、あのっ!」 よっぽど思い切って声をかけたんだろう。握ったせつなの拳が、ブルブルと小さく震えている。 「ん?どしたの~、お嬢ちゃん。」 カオルちゃんの声は、相変わらず呑気そのものだ。 「昨日の、メロン味のドーナツ・・・あれ、もう作らないんですか?」 (え?せつな、そんなにあのドーナツ、気に入ったんだ・・・。) 一瞬あっけにとられたあたしは、続いて聞こえてきたせつなの言葉に、ハッとした。 「少しだけ・・・もう少しだけ、作ってくれませんか?せめて・・・今度の日曜日まで。」 (今度の・・・日曜日?あっ!) ――現に、今度の日曜日にも、会いに行くことになってるし。 ――お土産なんかにも、ぴったりなんじゃない? 昨日の美希たんの言葉が、よみがえった。 「お嬢ちゃん、そんなに気に入ってくれたんだ。嬉しいねぇ~。」 カオルちゃんはそう言いながら、ワゴンの中から大きな鍋を持ってきて、ほら、と蓋を取る。 鍋の中にはとろりとした薄緑色のジャムが入っていて、つやつやした角切りメロンが、たくさん顔を覗かせていた。 「いやぁ、昨日は大好評だったからさ。あとはお客さんに食べてもらいながら、もっともっと美味しいの作るよ~。最高傑作が出来るのは・・・そうだなぁ、今度の日曜日くらいかな?グハッ!」 カオルちゃんの言葉に、せつなの頬がうっすらと赤く染まる。 ちょうどそこへ、あたしとせつなの名前を呼びながら、美希たんとブッキーが駆けてくるのが見えた。 「やったね、せつなっ!ほら、美希たんに教えてあげなくちゃ。」 「え?ラブ・・・気付いてたの?」 きょとんとするせつなの手を取って、あたしは走り出す。 「おーい、美希たぁん!ブッキー!」 まだまっさらな朝の光が、あたしたちを背中から照らしている。今日も、暑くなりそうだ。 ~終~ 新-985へ
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(美希……いい匂い。) あたしは美希の感触にうっとりした。 手入れの行き届いた長い髪は、さらさらしたシルクのよう。 肌も、何かパウダーでも付けているんだろうか? サラリと乾いていて、するすると指を滑っていく。 せつなの、しっとりと吸い付くような手触りとは違う、でも心地良い感触。 こんなふうに、せつなもあたしと祈里の体の違いを思ったりするんだろうか……。 バッシーン!と顔に強い衝撃。思い切り突き飛ばされて、体が横に吹っ飛ぶ。 焼けつくような痛みと熱さで、思いっきりひっぱたかれたんだ、と分かった。 美希を見ると、目に涙を溜め、真っ赤な顔で大きく喘いでいる。 「なに考えてんのよ!!!」 耳がビリビリするような声で怒鳴られる。 「どうして?美希たん、あたしの事キライ?せつなだったら気にすることないよ、 だって、今頃……」 バシンっと、今度は反対側を叩かれた。 「…いっ…たぁ…。」 てか、これ絶対腫れるよね。やば、口ん中切れてるよ。 「いーーーかげんに、しなさいよ!!!逃げるのも大概にしなさい!」 美希たん、声大きい。ご近所まで聞こえちゃうよ。 「ねぇ、ラブ?聞いてる?何があったか知らないけどさ。 アナタいったいどうしたいのよ?アタシに逃げるつもりだったの? 冗談じゃないわよ!!アナタ達3人でなんかドロドロやるのは勝手だけどさ、 アタシを巻き込まないでよ!」 美希、あたし、猫の子じゃないんだよ。そんな首根っこガクガク揺すんないで。 それに、相談してって言ってくれたじゃん…… どうやら、無意識に口に出してぶつぶつ言っていたらしい。 「相談しろとは言ったけど、誰が襲っていいなんて言ったのよ!」 「………!!!だって!だって!どうしたらいいかなんて、 あたしが教えて欲しいよっ!!」 「うわあぁああぁーーーーん!!!」 あたしは床に突っ伏して、子供のように泣きじゃくった。 逆ギレもいいところだ。美希、きっと呆れてる。 あぁ、美希にまで嫌われちゃう。あたし、一人ぼっちだ。 しょうがないなぁ…、と言う顔で美希がにじり寄ってくる。 ポンポンと頭を叩かれ…、 「……取り敢えず、さ。話すだけでも話してみたら?」 あたしは、美希に話した。今まで誰にも言えなかった事を。 あたしとせつなの事。祈里の事。せつなと祈里の事。そして、今日見てしまった事。 「あっ!あたっ…し、どっ…したら、いっか、わかっ…ないの! せっ、せづなはっ…なんであんな!…あたしっ、あたしの事、すっ好きって… うぅ…うぇっ!」 ブィィーーーン!あぁ、ハナ、ティッシュ一枚じゃ足りないよ…、あれ?もうない…。 あたしの前には丸めたティッシュが山を作っている。 美希が呆れたように、新しいティッシュの箱を差し出してくれた。 さすが、気が利く。あたしは立て続けに二枚、派手な音をたてて鼻をかんだ。 「つまり、ラブはせつなが好き。せつなもラブが好きなはず。 なのにブッキーと、…その、ね…何て言うか…」 「……やってたの…。」 「あぁ…まぁ、ぶっちゃけて言っちゃえばそうよね…。」 「…どうして?」 「…弱み、握られてる、とか?」 「…はぇっ?」 「だから、ブッキーは何かせつなの弱味を握ってる。だから、せつなは逆らえない…とか。」 「…ブッキーが?」 正直、その発想はなかった。なんか、イメージに合わないって言うか…。 それを言うなら、せつなに手を出すこと自体、想定外だったから 何とも言えないんだけど。 「ブッキー、ずっとせつなが好きだったんでしょ?こう言うのも、 恋は盲目って言うの?恋に目が眩んじゃうと、普段からは 考えられないようなコト、しちゃうかもしれないじゃない。」 さっきのラブみたいに!と美希に軽く睨まれ、あたしは縮み上がる。 でも、もしそうなら何となくせつなの態度も腑に落ちるかも。 あたしに何も言えなかったのも、あたしに知られたくない事を祈里に知られて… 「あああーー!!もう!!!」 あたしが自分の考えに沈み込みそうになってると、美希が突然、 頭を掻き毟りながら机に突っ伏した。 「なっ…なに?どしたの、美希たん!」 「…………アタシの、ファーストキスが……」 「……へ?…美希たん、初めだったの?」 美希は美人で大人っぽい。当然めちゃめちゃモテる。モデルやってて 出会いも多いだろうし、キスの1つや2つや3つや4つ…、てかそれ以上やってても 何の不思議も…… そんな思いが思い切り顔に出てたんだろう。 「あのねぇ!アタシ達、中学生なのっ!じゅうっ!よんっ!さいっ!」 美希は両手でテーブルをバンバン叩きながらエキサイトしてる。 ビシッとばかりにあたしを指差し、 「アンタ達が、爛れ過ぎてんのよ!!!」 爛れ……、ってすごいね。でも、まぁ、はい…すみません。 言われてみれば確かにあたしだって、ほんの数ヶ月前までは キスどころか恋愛の影すら……。グループデートが精々で。 考えてみれば、ものすごい急展開だよね。 今となっちゃあ、せつなとエッチしない生活なんて考えられないし。 「……その、マコトに申し訳も……」 「まぁ、それは置いておくわ。ラブも普通じゃなかったし。」 今回のはノーカウントって事で。 ……どうやら、勘弁してもらえたらしい。 「で、どうするの?」 「………なに?」 「せつなとブッキーは現在進行形で真っ最中。これは事実よね?……ああ、もうっ!そんな顔しないの!」 無茶言わないで。思い出しちゃったよ。せっかくちょっと落ち着いてたのに。 グズグズになりかけてるあたしに構わず、美希は言葉を続ける。 「先ずはラブの気持ちでしょ?何でせつなは、とか、何でブッキーが、 とかは取り敢えず考えない。ラブは、どうしたいの?」 「……………。」 「せつなと別れる?何ならブッキーに熨斗でも付けて……」 「絶対やだ!!!」 考えるより先に言葉が出た。そして、ちょっと驚いた。 あたしはめちゃくちゃ悩んでた。ショックで、哀しくて、怖くて。 でも一度も、せつなと別れるとか考えた事もなかった。 ただ、ひたすら怖かった。 せつながあたしを好きじゃなくなったんじゃないか。 せつなが離れて行ってしまうんじゃないかって。 「なんだ、もう答え出てるんじゃない。」 「……美希たん…。」 そうだ、あたしはせつなが好きなんだ。 祈里との関係が分かっても。…あんな、場面を見てしまっても。 泣きたいくらい、せつなが大好き。 「ちょ、ちょっと!ラブ?!」 あたしは力一杯美希を抱き締めた。さっきの事があるせいか、 美希は腰が引け気味だけど、そんな事はお構い無しにぎゅううっと力を込める。 あたし、今、世界で一番美希が好きかも。変な意味じゃないよ? だって美希が、美希だけが昔のあたしを思い出させてくれた。 あたしは勉強もスポーツも苦手。取り柄と言えば明るい事くらい? でも毎日張り切ってたよ。幸せ、ゲットするため。みんなの幸せゲットを 応援するため。 大好きなみんなと笑顔でいたい。そのためなら、どんな事だって頑張っちゃう。 あたしはいつだって前を向いて走ってた。 いつの間にか、そんな気持ちを置き去りにしてた。 暗い穴で踞り、見たくないものから目を背け、耳を塞いでいた。 美希は、そのまま沈みこみそうになってるあたしに、光を思い出させてくれた。 今日美希に会えなかったら、あたし、本当に壊れちゃってたかも。 美希、大好き。美希はあたしが自分の望む姿を思い出させてくれた。 強くなりたい。優しくなりたい。誰かを包み込む手になりたい。 理想には程遠いけどね。 いつも美希だけがあたしを叱ってくれる。 迷いそうになるあたしに渇を入れてくれる。 「美希たん、大好き。」 あたしに他意がないのが分かったらしく、 美希はおずおずとあたしの背中に手を回し、ポンポンとしてくれた。 「もう、そろそろ帰んなさい。ね?」 優しい声。お母さんみたい。って言ったら、また怒られちゃうかな。 「美希たん……。」 「ん?なに?」 ちゅっ! あたしは美希の唇の端っこに口付けた。 「!!!」 「わはっ!美希たんのセカンドキスもゲットだよ!」 「!!!もうっ、せつなに言うわよ!」 「いいよーだ!せつなに怒る権利ないんだから!」 もちろん、冗談。ゴメン、美希。テンション上げるの勝手に手伝ってもらった。 でも浮気じゃないよ?ある意味ホンキだよ?本当に大切だから! 「ありがと!また来るね!」 部屋を飛び出すあたしの視界の隅に、やっぱり呆れ顔の美希が見えた。 早くせつなに会いたい。心から、そう思えた。 3-595へ続く
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動物が好きな彼女に喜ばれるデートコースといったら、動物園か水族館。 紫外線の多いこの時期は断然、水族館。 天候に左右されないということもあるし、館内は空調が完備されているから快適ということもある。 それに、水族館内は照明が落とされていて薄暗いから、手を繋いだりしても人目が気にならない。 誘った方のアタシが水族館の入場料を払う代わりに、昼食はブッキーの手作り。 午前中は混雑を避けて先にイルカショーを見て、お昼ごはんの後は館内の展示生物を見る。 アタシのデートプラン、完璧! ・・・ただ、一つだけ、心配なことがあるとすれば、 水族館にはアタシが苦手なアレがいるだろうということ。 アレは八本足で、西洋では悪魔の魚と呼ばれているらしい。 そう、アタシはタコが嫌い。嫌いなんかを通り越して、怖い。 アレがいそうな場所というと、日本の近海の生物を展示してある所。 身近な魚介類が多くて日本のどこでも獲れることができる、マダコもいるかもしれない。 それと、魚類以外が展示してあるコーナーにも、タコがいる可能性が高い。 珍種のクラゲなど珍しい水棲生物がいるみたいで、インターネットで調べたけど、 どこに何が展示されているのかまでは、はっきりと分からない。 だから、アレによって、折角のデートが台無しになるかもしれない。気を付けなければ。 デート当日は、日ごろの行いが良かったからか、雲ひとつない快晴。 水族館は屋内だけど、イルカショーは屋外だし移動を考えると、雨より晴れの方がいい。 開館時間とほぼ同時に入館し、特に場所を取る必要もなく、一番早い回のイルカショーを見ることができた。 輪をくぐったり高い所にあるボールに触れたりするイルカたちに子どもの様に大きな歓声を上げ拍手を送る。 屋外にはペンギンやアシカがいるプールもあって、こっちが終わったら次はあそこという感じに、 イベントがある時間も少しずつずらしてあって、効率良く見ることができるように工夫されている。 逆にいえば、そういうイベントの時間は他の場所は空いているから、人ごみは避けてゆっくり観てまわった。 屋外展示をほぼ観終わると、日差しも強くなってきて、日陰の休憩所で少し早いお昼を取ることにした。 お昼はブッキーの手作りのお弁当、雑穀米を使ってあって野菜の彩りも良いヘルシーなもの。 メインがタコライスで、タコさんウインナーなど、何故かタコづくし。 タコとついているものの、タコライスにはタコが入っているわけじゃなく、 メキシコ料理のタコスを、トウモロコシで作ったトルティーヤではなくライスを使った沖縄料理。 屋外ではお弁当が傷みやすいから、スパイスの効いたタコライスという、チョイスなのだろうけれど。 アタシならネーミングにタコが入っているという理由もあるけど、 お弁当にタコライスは絶対に考えつかない。でもまあ、美味しいけど。 あれこれ思いつつも美味しくお昼ご飯を頂いて、午後からは館内の展示を見る。 屋内に入ってすぐの展示は、近海に住む魚達のコーナー。 大きな回遊式の水槽に、お魚屋さんでも良く見かけるお馴染みの魚が泳ぐ。 あまり関心のないアタシが見ると美味しそうとか、関係の無いことばかり頭に浮かぶのだけど、 ブッキーは真剣そのもので、水槽の中を悠々と泳ぐ魚達を見ている。 そういえば、魚屋さんに売ってる魚が多いってことは・・・・アレもいる? 大きな回遊魚に混じって、八本足のあの黒い影。 「ブッキー、こっちこっち。面白い魚がいるよ」 「まだ観てたのに。美希ちゃん、早い」 ブッキーの手を強引に引っ張って、淡水に棲む生物の展示コーナーに進む。 淡水に棲むタコはいないから安心して観ることが出来るのだけど、 海の魚と比べて色彩に乏しく身近な魚が多いからか、観ていて楽しいものは少ない。 ブッキーの手を引っ張ったまま離してはないから、今も手を繋いでいるってことを忘れていた。 足早に進んできたけれど、ブッキーがゆっくり観られるように速度を緩める。 繋いだ手も離そうとしたけれど、ブッキーが握り返してきた。 幸い、人気がないコーナーであるせいか人も少なく、そのまま手を繋いで観てまわった。 淡水魚のコーナーを過ぎると、水の中の生物と触れ合えるコーナーで、 ヒトデやエビなどの水槽の中の生物に触ることができて、子ども達には人気があるコーナーだ。 その中でも目玉の一つがドクターフィッシュと呼ばれる魚で、水槽に手を入れると、手に寄ってきて皮膚の古い角質を取ってくれる。 歯が無いため肌に触れても痛くなくてくすぐったい程度で、海外では皮膚病の治療に使われているらしい。 ドクターフィッシュがいる水槽に二つ大きな穴があって、ブッキーとアタシそれぞれ一つずつ中に手をいれる。 手を入れるとすぐ、全長10センチ程の小さな魚がたくさん手に群がってくる。 同時に入れたのに、ブッキーの方は少なくて、何故かアタシの方にばかり魚が寄ってくる。 手のケアは完璧!・・・・なはず。ちょっとそこ、何で笑っているの? 軽くヘコんだけど、楽しそうなブッキーの顔を見ると、気分が少し浮上してくる。 触れ合いコーナーには別の水槽もあって、浅くて岩などもあり、自然を模した作りになっていて、魚やヒトデなどがいる。 逃げ足?の速い魚もいるけれど、大抵の生物は動きが鈍くて小さな子でも捕まえることが出来る。 この水槽だけ時間がゆっくり流れているようなそんな中で、何かが物凄いスピードで動いている。 足を縮めて身体を丸め、弾丸のようにこちらに向かってくる。 岩と同化していたから気付かなかったけれど、あの八本足の黒い影はアレだ。 「ちょっ、ちょっと、こっち来て、ブッキー」 「えっ、美希ちゃん・・・・待って」 少し不自然な離れ方だったけれど、ブッキーは何も言わない。そのまま順路に従って進むと、次は深海生物のコーナー。 深海は光が届かなくて暗いから、展示コーナーも照明が落とされて真っ暗だ。 水槽の中は赤光に照らされていて中の生物が見えるけど、周りが暗いから覗きこまないと見えない。 人気があるコーナーには思えないのだけれど、人垣ができている水槽があった。 自分達の順番がきて水槽を覗きこむと、ふわふわと何かが水中を泳いでいる。 クラゲやナマコのような形で、UFOが浮かんでいるようにも見える様は、 決して可愛いとは言えないが、癒し系で愛嬌があって、キモかわいいといった感じだろうか。 赤黒い体色は、なんとなく、アレを彷彿とさせるけれど・・・ 「珍しい。メンダコね」 「メン・・・ダコ?!」 「うん、メンダコ。メンダコは飼育するのが難しくて、水族館でも・・・・・美希ちゃん!?」 タコだと知らない前に、少しでも可愛いと思えたことが信じられない。 アタシの名前を呼ぶブッキーの声が聞こえたけど、逃げることしかその時のアタシの頭になかった。 全力疾走で館内を通り過ぎると、行き交う人々が怪訝の表情でこちらを見る。 後で考えると凄い形相で走っていたんだろうけど、この場から離れたくて、とにかく走る。 あそこのコーナーを曲がり、直線を進むと見えてくるゲート。そこをくぐるとゴール・・・ ・・・ではなくて、すでに水族館の敷地から出てしまっていた。 水族館に再入場するには再びチケットを購入するしかなく、中学生の小遣いではかなり厳しい。 それに、タコがいるあの場所に戻るのは気が進まない。というより、行きたくない。 ラブやせつなならまだしも、タコが怖いことを一番知られたくない、ブッキーに知られてしまうなんて。 事前にタコがいそうな場所を調べておいたのに、深海魚のコーナーは盲点だった。 数分遅れて、ブッキーが館内から出てきた。 他にも観る所があったから、自分には構わず観てればいいと思うけど、迷わずアタシの所に来てくれた。 そのことは嬉しいけれど、同時に、ブッキーにアタシの顔を見られたくない。 だって、今のアタシは全然、完璧じゃない。 入口近くにある自動販売機からスポーツ飲料を買ってきて渡してくれた。 いつもなら甘いものはあまり口にしないのだけど、今は糖分が欲しい気分。 ベンチに座ったアタシの隣、一人が座れるくらいのスペースを開けて、ブッキーが座る。 辺りには誰もいないから、ベンチにはスペースの余裕があるのだけど、 いつもだったら、スペースがあろうとなかろうと、肩が触れ合うような間隔で座る。 今のアタシとブッキーの距離はそのまま、心の隔たりであるような気がして、心が沈んでくる。 ブッキーに貰ったペットボトルのふたを開け、スポーツドリンクを喉に流し込むと、 冷たくて甘い液体が身体に沁みわたり、気分が少し落ち着いてきた。 「格好悪いでしょ、アタシ。タコが怖いなんて」 「美希ちゃんは格好悪くない!」 「・・・・・美希ちゃんは、格好悪くなんかないよ」 ブッキーの強い語気にアタシも少し驚いたけど、言った本人の方も驚いたのか、小さい声で言い直す。 「うん。ありがとう」 「わたしの方が格好悪いよ。獣医さんになりたいのに、以前はフェレットが苦手だったし」 そういえば、ブッキーはフェレットが苦手で、最初の頃はタルトのことを避けていたんだった。 でも、動物と姿が入れ替わるというラビリンスからの攻撃で、ブッキーとタルトが入れ替わって、 結局、姿は元通りに戻って、ブッキーはフェレット嫌いを克服することができたんだっけ。 「それに・・・・」 「それに?」 ブッキーが少し言い淀んだ後、顔を上げてアタシを見つめて言う。 「それに・・・美希ちゃんはたこが嫌いなのに、わたしの為に水族館に誘ってくれたのが、嬉しい」 「ブッキー・・・・」 なんだか、ちょっといい雰囲気。 周りには人影もないし、手を握って、ブッキーを引き寄せて、そのまま・・・ グ~~~~~ 雰囲気を一変させる音は、アタシのお腹から。 水族館の外で、辺りは静まり返っているから、お腹の音はブッキーの耳にも届いただろう。 なんか本当に、今日は格好悪い所ばかり、ブッキーに見られてる。 「美希ちゃん、ごめんなさい。今度、オーディションがあるから、お弁当少なめにしたの」 確かに、タコライスは美味しかったけど、量が少なかった気がした。 それと、昼ごはんを食べた後は、何処にアレがいるかと極度の緊張の連続で、 しかも、全速力で水族館を一周したから、お腹が減ってもおかしくない・・・のかも、しれない。 「何か食べるもの、買ってくるね」 「ブッキー、待って・・・」 いらないと伝えようとしたけど、既にブッキーは走り出していた。 水族館の入口の近くに出口があり、入口の反対側には屋台のようなお店が何件か並んでいる。 お昼時間であれば沢山の人で賑わっているが、今は昼を過ぎているせいか人の姿はない。 「えっと、確かこの辺に・・・・あ、あった。おじさん、たこ焼き下さい」 だから、タコは嫌!! 了 ~おまけ~ 「美希ちゃんに問題です。魚へんに喜ぶと書いて何というでしょう」 「魚へんだから、魚の名前よね。喜ぶだから・・・めでたいで、タイ?」 「ブー」 「ヒントはよく食べられている魚です。でも、美希ちゃんはあまり食べないかも」 「サケ、いわし、あじ、さば、さんま・・・・」 「ブー、全部不正解です」 「分かんない。正解を教えてよ、ブッキー」 「正解は・・・恥ずかしいから、美希ちゃん、目を閉じて」 「うん、分かった」 と言ったものの、恥ずかしいと言った意味が分からない。 言われるまま目を閉じると、唇にふわっとした柔らかい感触。 キスされたと気付いた時には、ブッキーが離れてしまっていた。 正解できなくて少し悔しかったけど、これが罰ゲームというなら、 また、クイズが不正解でもいいかなって思う。 「ところで、さっきのクイズの正解は?」 「さっき、口にしたけど」 「アタシ、聞いてない」
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ダンスレッスンに、 今日も美希ちゃんは来ていない。 ここのところ、撮影が目白押しで 美希ちゃんは忙しそう。 週末は泊まりがけでロケだって。 先月の雑誌にも、美希ちゃんが たくさん載っていた。 アウトドア特集での爽やかな笑顔。 乗馬体験での、おっかなびっくりな顔。 大人っぽいドレスを着て、すました顔。 どの美希ちゃんも、とても魅力的。 写真を見ていると、ふっと不安になる。 私を好きって言ってくれたけど、 美希ちゃんは、華やかな世界で生きてる人。 雑誌の写真だって、男のモデルさんに ご飯食べさせたり、みんなで肩を組んで にっこり笑っている表情が、とても自然で。 こんな人たちが居るところなら、 出会いだってたくさんあって、そのうち...。 胸元の飾りに、手を触れる。 ちょっと背伸びしたアクセサリーショップで 美希ちゃんと一緒に買ったネックレス。 勾玉のような、ゆるいカーブを描いた 小さな銀色の飾りがついている。 美希ちゃんと選んだとき、一緒に 指さしたのが、これだった。 ひんやりした感触が、心地良い。 私にとっては、一番大切な宝物。 でも、美希ちゃんにとっては、 たくさんある大事な物のなかの、 ひとつなのかな。 最新号のファッション雑誌が発売されていた。 公園の端にあるベンチに座り、ページを開く。 「あっ...」 私は思わず声をあげた。 『人気モデルの私服紹介! 今月は、人気モデル蒼乃美希ちゃんの 普段着を紹介しちゃうぞ!』 ............................... アタシ、私服だって完璧に決めてるの。 モデルは家を一歩出たら、絶えず見られることを 意識しないとネ。 アクセサリーのポイントは、 胸元のネックレス。 かわいいでしょ。 大切な人とおそろいなの。 え、彼氏?それはナイショ! ............................... 人差し指を唇に当て、いたずらっぽい 笑みを浮かべている美希ちゃん。 胸元には、私と一緒に買ったネックレス。 嬉しさと、会えない切なさが混じって、 つい、美希ちゃんの写真にキスしていた。 「何やってんの?」 突然後ろから声をかけられ、 私は飛び上がった。 「みみみみみ美希ちゃん!!!」 「やだ、どうしたの?祈里」 「いや、なな、なんでもないよ。 ちょっと写真にキス...いや、違っ...」 美希ちゃんがクスクス笑い、 私の肩に両手をのせ、後ろから 雑誌を覗き込んだ。 「あ、これね」 フレグランスが、ふわっと香る。 美希ちゃんの、匂い。 「最近祈里に会えてなかったから ちょっと私的にページ使っちゃった」 舌をペロっと出した美希ちゃんは 遠い人じゃなかった。 私のとっても近くにいる、大切な人。 「えええ...えっと...」 「ん?」 「...ありがとう...」 「うふふっ、顔真っ赤だよ」 美希ちゃんが自分のネックレスを差し出す。 美希ちゃんのネックレスには、 同じ銀色の飾り。 私のとは、向きが逆。 私のネックレスの飾りを、 美希ちゃんの飾りに合わせる。 流れるような、ハートの形になった。 「いつも、一緒」 「うん」 視界が、雑誌で遮られた。 美希ちゃんの方を向いた瞬間、 唇が重ねられた。 雑誌で隠れて、公園の人たちからは 多分、見えない。 「祈里が、一番だからね」 唇を離し、美希ちゃんがささやく。 私の心が、読めるんだろうか。 美希ちゃんの大胆な行動に、 私はもうすっかり骨抜き。 「今日は撮影で使った衣装借りてきたの。 これからうちで祈里のファッションショーやるよ!」 「ええ...似合うかな、私」 「大丈夫!祈里に完璧に似合うのを選んだから」 手を繋いだ私たちは、美希ちゃんの家に 向かって走りだした。 ずっと、この幸せが続くといいな。